コモディティー商品はブランド開発がビジネスを決する
300円の商品ともなると字義通りの意味で「コモディティー」なので、品質管理や技術開発もさることながら、ブランド開発がビジネスの雌雄を決します。最も極端な例は、清涼飲料水の一つである水でしょう。中身はただの水なのですから、硬度などに多少の違いはあれ、商品そのものに品質や技術革新の点で大きな差をつけることはできません。アメリカの大手スーパーでは、濾過した水道水をブランドのラベルをつけたペットボトルに詰め、きちんと水道水と銘打った上で販売していたりもします。そうなると、消費者の選好を分ける要素の大部分は“ブランド”ということになります。
ブランドには、品質や技術革新に裏打ちされた「商品そのものの使用体験」が自然に形作るものもありますが(そういう側面を否定するものではありません)、ここでいうブランドは、ブランドビルディングをする、という企業の能動的なアクションに基づくものです。そして、前述のような「300円の商品を世界で販売する」グローバルFMCG(fast moving consumer goods/日用品)企業には、そういったブランド構築のための「実務の体系」があります。
もちろん、300円の日本商品が海外でまったく売られていない、ということではありません。ここでは世界中で(特定の地域のみならず複数の文化圏にまたがって)、再現性をもって(複数ブランドについて継続的に)、技術の特異性に依拠せずに、300円の商品を販売できているか、という視点で「グローバルFMCG企業」を定義しています。結果として、日本国内首位がグローバルでも首位、またはトップ3に入っているカテゴリーが、自動車や家電の価格帯では見られるが300円前後の商品ジャンルではほとんどない、というのも一つの事実です。
例えば「ブランドマネージャー制」というのは、P&Gが開発した実務の体系です。実務の体系というのは企業のコアコンピタンスなので、マーケティングの「理論の体系」のように書籍になったり大学の授業になったりして一般公開されることはありませんが、グローバルFMCG企業はそれぞれこのようなブランディングの「実務の体系」を持っているからこそ、品質や技術革新に裏打ちされた商品そのものの使用体験に頼ることができないFMCGにおいても、世界中どこででもブランドを築くことができるのです。