「モノからコトへ」の本当の意味~体験ブランディングの背景にあるもの(後半)

買った瞬間から始まる物語。本当の感動は、手にしてから先にある

このように消費者のフィルターを通じてブランド価値が形成されていくとすれば、自ずと企業と消費者の関係も根本から変わらなくてはいけないわけですが、実際はまだうまく対応できていないように見えます。

なぜなら企業も広告も、これまで製品中心で考えられ、目の前の製品をいかに消費者に売り切るか、に注力してきたから。購買までのプロセスを重視して生まれた行動分析モデルも体験ブランディングをする上ではあまり役に立ちません。

モノよりコトを重視する消費者の心を掴むには、買った後に始まるストーリー(=ブランドの体験価値)を重視した付き合い方が必要になります。Action(購買)の先に何があるのか? Shareをしてもらうためには何をすべきか? そのためには、ブランド側は企業主語から消費者主語に頭を切り替えることが欠かせません。

ここで改めて「モノからコトへ」を紐解いてみると、そこにはユーザーとブランドの理想的な関係性が見えてきます。

モノは、売れるまではスペックを有している単なる物体でしかありません。しかし、購入され手にした瞬間からユーザーとの体験が始まります。その時、ユーザーとの心のつながりを築く体験をつくりだせれば、それは愛されるブランドに変わるのです。

メーカーがユーザーに対して機会やサービスをつくり、その製品と付き合い始めてよかったと思っていただける回数が増えるほど、体験や経験の質は上がります。商品を手にしたことで始まるブランドとのストーリーがどれだけ楽しくなるか、それをどんどんサポートしていく。届いてから始まる物語を大事にすれば、製品の作り方や届け方も絶対変わるはずです。

ブランドは生活者と一緒になって、エモーショナルストーリーを築いて、ブランド体験価値を共創する必要があるのです。この体験価値の質が良いほど、買い替えのタイミングを迎えたときにも「次もこのブランドにしたい」という強い愛着や絆を生む源泉になるということです。

藤井一成氏(ハッピーアワーズ博報堂 代表取締役社長/クリエイティブディレクター))

1968年広島市生まれ。1992年早稲田大学政経学部卒業後、電通国際情報サービスに入社。1999年から博報堂でインタラクティブクリエイティブを軸に統合キャンペーンを数多く手掛ける。その後、グループ内ブティック、タンバリンに参加。2016年より同社代表に就き、「至福の時間をつくる」クリエイティブブティック「ハッピーアワーズ博報堂」に社名を変更。消費者の“いま”の視点に立ち、ブランドが持つ価値を再編集することで新たなエンゲージメントを築き、ブランドと消費者、社会を次のステージへとポジティブに動かす。「正しいことを楽しく実践して、すべてのステークホルダーを幸せにしたい」という信念のもと、戦略、クリエイティブ、体験デザイン、PR、デジタルなど、360°の視野で構想から実践までを行う。

 

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藤井一成(ハッピーアワーズ博報堂 代表取締役社長/クリエイティブディレクター)
藤井一成(ハッピーアワーズ博報堂 代表取締役社長/クリエイティブディレクター)

1999年から博報堂でインタラクティブクリエイティブを軸に統合キャンペーンを手掛け、その後グループ内ブティック、タンバリンに参加。2016年より同社代表に就き「ハッピーアワーズ博報堂」に社名を変更。

“これでいい…”という消極的選択が溢れる成熟社会で、「ブランド」と「生活者」の関係性をアップデートする“至福”の体験価値をクリエイティブし、ブランデイングとマーケティングの両輪を動かしている。

藤井一成(ハッピーアワーズ博報堂 代表取締役社長/クリエイティブディレクター)

1999年から博報堂でインタラクティブクリエイティブを軸に統合キャンペーンを手掛け、その後グループ内ブティック、タンバリンに参加。2016年より同社代表に就き「ハッピーアワーズ博報堂」に社名を変更。

“これでいい…”という消極的選択が溢れる成熟社会で、「ブランド」と「生活者」の関係性をアップデートする“至福”の体験価値をクリエイティブし、ブランデイングとマーケティングの両輪を動かしている。

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