子育て、それはプロジェクトの「困難さ」と「面白さ」、その両方をまさに体現する行為
筆者は現在、6歳の長女と0歳4ヶ月の次女の子育てのまっただ中にあります。子育ては、当事者にとって始める前は未知の世界であり、想定外の事態がつきもので、有限の時間のなかで行う活動です。これは本書の定義における「プロジェクト」と言ってもまったく差し支えのないものです。
子育てとプロジェクトの共通点は他にもあります。
子育て中の友人と会話をしていると、結構高い確率で、「子どもの寝息を確認する」という共通の体験の話をすることがあります。それは何かと言うと、単純に子供がかわいいとかそういう話ではなく、「ふと気づいたら息が止まっていたらどうしようか」という漠然とした不安による生存確認行為なのです。
何を大袈裟な、と思われるかもしれませんが、特に新生児の頃は本当に見るからに弱々しく、脆弱な生き物に思えるもので、何かあったらどうしようかという不安は多くの親が抱くものだと思います。
このように、健康を害するようなことがあったらどうしようか、という「不安」の面と、色んな才能を伸ばして欲しい、幸福と自己実現と共に人生を歩んで欲しいという「期待」の面の両方がある、というのも、ビジネスにおけるプロジェクトと共通していると思います。
プロジェクト工学では、そのプロジェクトが何を目標としているのか、またそれがどうなれば成功したと判断するのかという基準を「獲得目標」と「勝利条件」と呼んでいます。
プロジェクトというものは、それが初めての仕事である以上、原理的に、事前に適切な勝利条件を定めることは不可能です。子育てというプロジェクトにおいても同様で、もちろん子供の健康が第一なのですが、音楽やスポーツでの才能を開花させて欲しいとか、字の読み書きや計算に秀でて欲しいとか、容姿端麗であって欲しいとか、色々な勝利条件を考えてみては、思い直し、という経験は、多くの親に共通しているのではないでしょうか。
「こうあってほしい」と当初思っていたことが、「結果、そうはならなかった」ということになっても、それはそれで、結果オーライであったり、むしろこの方が良かったじゃないか、というふうになることもまた、多いことと思います。