ハリルホジッチ監督の解任から、プロジェクトマネージャーの採用、任命の教訓を得る

「こうあらねばならない」という固定概念に囚われていないか?

プ譜のメリットは、プロジェクトの状況を可視化して、検討すべき問題点を明らかにする点にあるということは上述した通りです。また、自分の頭の中で考えていることをプ譜に外在化することで、より客観的かつ広範に問題に対して向き合うことができます。

主要なインタビュー記事やこれまでの日本代表の戦績、志向するスタイルなどに関する記事を元に作成したプ譜を見て、疑問に感じたこと、検討すべきと思われる問題を書き込んでみました。

問題と感じたものは大きく二つあります。

1つは、日本代表が抱える、アジア予選では強者の戦いで勝てるが、本選では強者の戦いでは勝てない問題の解決方法は検討されていたか。もう1つは、勝利条件である、「18年ロシアW杯で8強入りするチームをつくることができる」は適切だったか、です。

順に解説します。
一つ目の、アジア予選では細かくパスをつないで崩すサッカーで勝てても、世界の強豪国と対戦する本選ではそれが通じないという問題は、世界的にも珍しいダブルスタンダードのプレースタイルを日本代表に強いています。ヨーロッパにも強者と弱者の関係はありますが、その実力差はアジアに比べはるかに拮抗しており、過去オランダ、イタリア、ポルトガル、フランスといったW杯またはEUROの優勝国でさえ、予選敗退を余儀なくされています。南米も似たような状況で、二強と目されるブラジルとアルゼンチンであっても、楽々と首位通過することは難しい。そうした環境で、代表チームは概ね4年間というスパンで予選を通じてチームをつくり、戦術や組織を浸透・熟成させ本選に挑んでいます。その戦い方にダブルスタンダードの要素はない、あるいは少ないといえます。

翻って日本代表は予選通過と本選は別物と言ってよく、韓国との共同自国開催で予選が免除された02年W杯を除けば、02年から06年のジーコ監督体制。06年就任後病に倒れたオシム監督の後を継いだ岡田監督体制。10年から14年のザッケローニ監督体制と、 日本は常にこの問題に悩まされてきました。そこで、このダブルスタンダード問題は、一人の監督が四年の歳月をかけて解決しなければならないのかという疑問が起こります。

予選と本選で戦い方が違うのであれば、極論監督は途中で変わってもいいのではないか。強者の戦いで臨める予選は日本人監督で(年俸も著名な外国人監督よりも低いはず)。予選突破後は、世界と戦うことのできる、巧みな用兵のできる監督に託しても良いのではないか。

思い起こされるのは、02年W杯の韓国代表です。予選が免除されていた韓国代表は、許丁茂(ホ・ジョンム)監督のもと、W杯に向けてチーム強化をはかってきましたが思ったような結果を残せず00年に辞任。その後を継いだフース・ヒディング監督による韓国代表の躍進(3位)を羨望のまなざしで眺めた方も少なくないでしょう。その当時の選手のクオリティやタレントなどの外部要素はあるとはいえ、二年間あればこれだけの成果が出せることは隣国が証明してくれています。

このように考えれば、15年3月のチュニジア戦、同年6月の二次予選までに、監督を招聘する必要は必ずしもないという考え方をすることができます。

4クールに切った第1クールで監督の契約解除という非常事態であれば、そうした戦略は思いつけないという声があるかも知れませんが、想定外がつきもののプロジェクトにおいては、想定外はむしろ大きな方針転換や大胆な施策を取るチャンスでもあります。しかし、監督は四年間のスパンで任せるべきだという固定概念に囚われ、常からこのダブルスタンダード問題を真剣に研究していなければ、こうした可能性は芽生えるはずがありません。

もう一つの、勝利条件である、「18年ロシアW杯で8強入りするチームをつくることができる」は適切だったか、という問題は、一つ目の問題と密接に絡みます。

アギーレ監督招聘時の勝利条件は、「18年ロシアW杯で8強入りするチームをつくる」でした。そして、そのための条件を技術委員が中心になってまとめ、アギーレ監督を招聘し、契約解除後もその方針は貫かれていたはずです。しかし、ハリルホジッチ監督の就任経緯についてのインタビューの最後に、「もちろんW杯に出ることが目標」という発言をしています。

『予定通り進まないプロジェクトの進め方』では、プロジェクトの最終目標とは別に、そのプロジェクトの成功判断基準である“勝利条件”の設定と更新を重視しています。日本代表監督を招聘するプロジェクトにおいては、当初の勝利条件は「18年ロシアW杯で8強入りするチームをつくることができる」であったはずです。その勝利条件を果たす人物としてアギーレ監督が選ばれたわけですが、ハリルホジッチ監督就任時の会見では、「W杯に出場することが目標」となっている。本選出場と8強入りの隔たりは言うまでもありません。

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