世の中の課題にまで視座を高めて
山口:審査委員をやっていると勉強になるんですよね。マーケティング・エフェクティブネス部門への応募作にも、そもそも社会問題をどう解決していくかという課題のものが増えていて、世の中が見える感じがします。こんな表現があったんだ、と。
藤井:自社で仕事をしていると、どうしても偏りが出ますから。ACCならいろいろなものが集まってくる。
久保田:昨年創設されたクリエイティブイノベーション部門で、「COGY/あきらめない人の車いす」がグランプリを獲りましたけれど、従来型の広告賞では応募されない作品ですよね。社会的な意義が高いし、ダイバーシティの視点でも非常に質が高い。テクノロジーが発揮されているし、これを利用する方がいろいろなところに出かけて人と触れ合うという点でコミュニケーションツールでもあるし、広くとらえればコンテンツでもあります。
藤井:かつてのACCでは枠外にあった作品で、部門も応募もありませんでした。今のACCは広告業界以外でも、クリエイティビティに関わる人たちが世の中をよくするために考えていることを称賛して、応援できるというのはとてもいいことだと思います。さまざまな業種間で融合が起きて、お互いの力を使い合って産業が発展していく、社会をよくしていく場になればいいなと。
久保田:素晴らしいですね。この年になってくると、社会課題に対する視点が強くなってくるんですよ。今までご迷惑をおかけした分、お返ししたいと思うようになる。テクノロジーで課題を解決した事例を掘り起こすうえで、ACCの存在は大きいですよ。たくさんの人にその事例を知ってもらうことができる。もう、「シーエム放送連盟」という名称はやめた方がいいんじゃないですか? 全然、実体と違っているから。
山口:時代に合わせて中身は変わりますものね。話は戻りますけれど、まず企業とは何かしらの社会課題や欲求を満たすためにサービスを提供していますよね。そう考えるとそれはパーパスの部分。
久保田:ソーシャルグッドというより、課題を明確にして、それをどこまで解決してみんなが元気に幸せになれるかということ。
山口:コミュニケーションの本質とはそういうことですよね。
久保田:そこのスペシャリティをせっかく持ったのだから、それで大きな課題をどう解決するかというところまで視座を高めたい。当社のクリエイターには、そういったチャレンジをし続ける人になってほしいですよ。全員がなれるわけではないでしょうが、ちゃんとトータルデザインのできる人は大きなステージまで行って、世の中の役に立つことをしましょうと。その方が絶対におもしろいし、自己実現にもなりますよね。
山口:「明日収益を上げなさい」だけでは疲弊していくけれど、その先のパーパスがどこにあるかと。
久保田:その時のマネタイズが難しいですけれどもね。
藤井:もともと事業とは、クリエイティビティとシステムの掛け算でできあがっています。システムだけが肥大化して、クリエイティビティが忘れ去られがちですが、クリエイティビティを持っていてシステムまで構築できるって天才ですよね。だいたいの人はできなくて、どちらかですよ。この組み合わせが奇跡的に素晴らしいものになると、事業は大きくなる。
クリエイティブとは“世の中の役に立つ”というのが最大だと思います。ものすごい価値を見出す何かを見つける、そこをやっていかないと日本の会社はいろいろな意味で負けてしまいます。