【座談会】ACCの進化は第2フェーズへ 久保田和昌氏×山口有希子氏×藤井久氏

縦割り型からトータルデザインの時代に

久保田:宣伝部が、社内においてどういう機能を期待されるかもポイントですよね。宣伝部が発注を受けてそれに対して応える、という形のうちは、クリエイティビティやコミュニケーションを高めていこうというところでブレイクスルーすることは難しい。スペシャリティとして提案力を持ちながら社内を仕切れるか、というのが問われてくると思うんです。

山口:事業の課題や方向性、経営の方向性をきちんとわかっていないと、正しいコミュニケーションはつくれませんね。

久保田:「このブランドキャンペーンをやるからよろしく」と降りて来たものを請け負ってつくるだけでは、少しの販促的解決にはなるかもしれないけれど、ブランド解決になりません。やっぱり受けではなく、そのコンディションはどうなのかという話を捉えながら、生活者にとって幅でいくのか、奥行きでいくのか、幅と奥行きでいくのかと。どんなメッセージを出したら、どれだけのファンが納得し、多くの方が共感して手を出してくれるのかというところまで行きつく発想ですよね。おそらく広告クリエイティブだけの話ではなく、販促やイベント、営業の動き方まで提案する必要があります。

山口:そう考えると、企業がやりたいこと、したいこと、伝えたいことをさまざまな接点でどう感じていただくかがコミュニケーションの設計でありトータル設計ですね。それが細分化されている感じが大きくて。メディアや手法がこれだけ広がっている中で、根本的なコアを考えて本質的なメッセージを考える必要があります。

藤井:専門性とはなんぞや、という議論が従来からありました。縦に割れて、隣のことがよくわからないというマーケティングの世界があった。今はそれでは立ち行きません。横、そして全体の中での最適化が始まっています。クリエイティブも最初はマーケティングの概念が狭くてプロモーションと同じ意味合いで使われていたのですが、今では事業の根幹からマーケティング的なことで起こさないと本当の意味で社会やお客様から注視される事業にはならない。これまでテレビが異常に強かったということもあるでしょうが、急に“横”が始まった。

久保田:クリエイティブがあって、次がプロモーション、その次は……と縦でした。でもその頃から言っていたのは、要はトータルデザインであり、上流から下流まですべての接点において何をどうデザインするのかということでした。トータルなコミュニケーションデザインは、ひとりで組み立てなきゃいけないんじゃないかと。“ひとり電通”みたいな人が必要。

山口:ハードル高い(笑)!でも、それは外資系のマーケティングのトップの発想ですよね。

久保田:経営トップと向き合って、経営課題や企業課題を解決するとなれば、そのレベルが求められます。クリエイターに留まらず、企業のブランドマネージャー等もそのステージで物事を語り、実現に向けての具体的な施策を打ち出して提案できるか、と。

山口:狭義のクリエイターではなくて、広義の事業デザインを含むような人たちが、今世の中でポジションを上げていますよね。

藤井:デザイナーと呼ばないのかもしれません。ビジネスデザイン、設計、発想のできる人が求められています。

山口:イノベーションのためにも、日本からもどんどん出てこないといけませんね。

久保田:出つつあるけど、まだ一部ですね。以前、私がサントリーの宣伝デザイン本部長に就いていた時、部下にそういう人がいまして。一つの商品のデザインをする時にも経営発想がありましたよ。

山口:企業状況を理解するところから始まる。

久保田:優秀なデザイナーはそれができるんですね。そういった発想を持った世界的なところはたくさんあるし、もっと日本も開いて、オリジナリティを大事にしながらも世界にあるものを取り込む。ACCも世界に向けていくという話がありますし。

次ページ 「ACCの今後の在るべき姿」へ続く

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