テクノロジーで舞い戻ってきたラジオの時代
嶋:radikoができて、AIスピーカーができて、ラジオがちょっとずつ変わってきて、作り手の感覚も変わってきていますよね。ラジオCM部門には「アンダー29」という若手向けの賞があるのですが、なぜできたかというと、若い人がラジオCMをつくらなくなってしまったという危機感があるからなんです。若い人たちがつくったら褒めて応援しようということだったんだけど、ここ1、2年彼らの作品のクオリティが上がっているんです。
橋本:一度つくらなくなったけれど、またつくるようになっていると。若い子は今どういう印象でラジオに接しているのだろう。オールドメディアとして接しているのか、新しいメディアとして受け入れているのか。
嶋:新しいメディアとして接してもらった方が全然いいですよね。
橋本:もちろん。一度断絶をした、という前提で、これは新しいものですよと。そう受け取ってもらっているなら、それこそ伸びしろがあるんじゃないかと思いますよね。「ラジオの電波を合わせるのがいいんだ、radikoにはノスタルジックな感じがない」という話もあったけれど、いやもう便利さには何も勝てないよって。
嶋:最新テクノロジーとしてラジオが舞い戻ってきた。
橋本:スマートスピーカーの存在はかなり大きいと思いますよ。
吉田:スマートスピーカーは無文脈なんですよね。で、ラジオCMって無文脈音声コンテンツなんですよ。ACCは、無文脈音声コンテンツの、コンテスト。だから実は、スマートスピーカーでラジオCMを流すのがすごい効くはずなんです。ACC賞を獲ったものは、「ラジオCM聴かせて」って話すとバンバン流れるようにしてくれたらいい。ラジオそのものの価値が上がるかもしれないので、是非やってほしいです。スキルのランキングを見ると、どの国でも必ずラジオがトップなんです。日本だったらradikoだし。
橋本:当たり前なんですよね。だってスマートスピーカーって、今受信機の中で一番ラクにラジオが聴けるものだから。これまで「電源入れてチューニング」と2アクション必要だったものが、話すだけという1アクションで聴けるようになった。今後タイムフリー機能にも対応していくだろうし、スマートスピーカーはもうラジオ受信機として売り出してほしいくらい。
嶋:もう、その方がいいよね。
橋本:そういう動きもあるんですよね。これまでラジオ局関係者しかラジオを応援していない空気があったのに、最近はメーカーが売り場で「ラジオ聴いて」と言いはじめている。僕は十何年ラジオをやっていますが、初めて世の中がラジオを見ている感じがします。
吉田:あります、あります。ここでつまんないと思われたらおしまいだ!みたいな。
橋本:番組もCMも、他の媒体と比べるとイケてるじゃんと思わせなければいけないタイミング。絶対にさぼれないですよ、今。仕掛けるなら、今。一番先におもしろいことをやる媒体はラジオでなければいけない、という発想は昔からあったはずで。それを今やらなきゃいけない。
吉田:手法が増えれば増えるほどありがたいですね。ACCには音声コンテンツの実験室であっていただきたいんです。
あと、今トゥルーワイヤレスイヤホンの片耳だけつけて動いている子がすごく多いんですよ。ずっとラジオを聴いていて、普通に人と話もできるんです。
嶋:それは本当に「耳だけ借ります」というラジオのながら力の究極ですね。
吉田:ソニーのXperia Ear Duoとか出ましたけど、イヤホンに穴が空いていて環境音が聴けるという。
橋本:あれはすごいですね。まさにラジオを聴いてくれと言っているような。ラジオを常時聴いているけど人とも話せる。
嶋:ネット常時接続ならぬ、ラジオ常時接続の時代がやってくるということですね。
吉田:その方がいいですよ。ネットだと自分で検索して自分の興味のあるところにしか行かないけれど、ラジオなら興味がないところからも得られるものがある。
橋本:偶然の出会いによる何か、という体験を失くしすぎているネットに対して、一石を投じる存在ですね。
吉田:スマートスピーカーより先に、オープンエアヘッドホン。
橋本:そこにもAI搭載がありえますしね。
今の物はすぐに充電が必要になっちゃうんですけど、あれが十何時間続けて聴けるようになったらかなりいい。1日中つけたまま仕事して、ラジオ聴いて、天気聴いて。
吉田:オンデマンドで交通情報も。むしろつけていないと「仕事中なのになんでつけてないんだよ」と怒られる時代が来るかもしれない(笑)。今みんながスマホを持っているように。
橋本:ウェアラブル端末の耳版ですよね。