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人々の時間がスマートフォンに奪われ、マスメディアによる広告だけで十分な接触数を獲得するのは困難になりつつあります。若者の広告接触は特に深刻です。そうなると、複数の多様なメディアを組み合わせることが必須となります。その場合、中心となる広告メッセージには、異なるメディアを「横断する」に値する「シンプルで野太い物語」がより求められるようになるでしょう。
これまでは、広告主がマスメディアという巨大な舞台で、一方的に伝えたいことを言い放っても、たくさん回数を訴求すれば「なんとなくそうなのかな」と思われたりもしました。しかし、リーチの減少や懐疑的な消費者の増加で、イメージだけのメッセージは力を持ちにくくなっています。
これからの広告メッセージには、「生活者を中心とした、ファクトベースの物語」があるべきだと考えています。つまり、受け手を主人公にして、広告を民主化する。そして、ブランドを強化する具体的なニュースをつくっていくのです。その物語を体現しブランドを強化するために最も適した手法が「体験」です。人々が自発的に盛り上がれる場を設定し、濃い体験によって人々との深い心のつながりを得るのです。
ただイベントやデジタルなど、体験施策の多くは、接触者数に限界があります。接触者数が少ないと社会的影響力が低く、結果として単なるノイズで終わりかねません。そこで体験を映像化するなどして大勢の人に二次的に伝えるために、マスとデジタルを統合したメディアプランが重要になります。
昨今、イベントやデジタルなどの体験施策を、マス広告と融合させることが重要と言われていますが、これからの進化した体験型プロモーションは、プランニングの中心に体験施策を据えるべきと私は考えています。企業の行動やユーザーの体験という「事実」に基づいた「プロモーションコンテンツ」が主で、テレビCMをはじめとする「統合的かつ効率的なメディアプラン」でコンテンツを広め、ブランド形成にとどまらず行動喚起を促していく考え方です。
体験型の強い事実を作り、テレビCMをはじめとしたメディアプランで、受け手主体のリアリティのあるコンテンツを広めていく手法を、ネオ・プロモーションと呼んでいます。
このネオ・プロモーションは、大量の媒体のパワーマーケティングとは対極にあり、実態を伴った「有言実行型」の表現なので、アイデアと労力とフットワークを必要とします。さらに、人々の社会不安や自己実現など、社会的な文脈と広告テーマとの接点を発見して関連付け拡散性を加味することで、より多くの人にコンテンツに関心を持ってもらうことができます。
本書『物語と体験』では、このネオ・プロモーションが重要になっている背景や考え方、事例について解説しています。
ここでは、ネオ・プロモーションを実施するうえで重要なキーワードを紹介します。それは「Story TellingからStory Doingへ」です。
ネオ・プロモーションにおけるコンテンツは、静的な世界観イメージを押し付けるものではなく、行動喚起型の「パワフルなインサイト」に基づいた、多くのメディアの中で横断的に伝達可能なメッセージでなければなりません。今までの広告は、イメージでブランディングする「Story Telling」が基本でしたが、実際の行動によって示す「Story Doing」という行動型メッセージが大切になってきます。メッセージの「裏付けが現実に存在すること」が重要なのです。
Webの急成長により、バーチャルが肥大している反作用で、逆にリアルな場でのリアルなネタづくりが拡散ネタになりやすいのです。たとえば、イベント、参加体験、展示、ポップアップストア、アプリ、応募、クイズ、ゲーミフィケーションなど、セールスプロモーション領域の「行動を誘発」し得るリアルコンテンツ型施策を通じて、ユーザーの体験や企業の行動をつくり、それをもとにブランドストーリーをデザインしていくのです。
「企業の行動」「ユーザーの体験」という事実をもとに、社会的文脈を加味した「体験型施策」を中心に据えた、プロモーションコンテンツ型の新しい統合メディア広告がこれからますます有効になると考えています。
望月和人 (2章担当)
1970年生まれ。株式会社東急エージェンシー/TOTB 統合クリエイティブディレクター。業務実績として、東京急行電鉄「渋谷ヒカリエ」開業キャンペーン、NHKワールド全世界150ヶ国スポット、カンロ「金のミルク」、日本中央競馬会ジャパンカップ「ステーションケイバ」など。ACC賞、TCC新人賞、準朝日広告賞、毎日広告デザイン賞、宣伝会議賞、東京都屋外広告コンクール東京都知事賞など受賞。著書に『心に刺さる話し方』(2015年電波社)がある。
『物語と体験 STORY &EXPERIENCE』
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