鉄道の歴史は、沿線に住む住民自身の歴史でもある
東京急行電鉄(以下、東急電鉄)は、車内ビジョンなどで「My Home Train 2020」を放映している。 2018年3月に田園都市線で運行を開始し、16年ぶりとなる新型車両「2020系」の特別ムービーだ。
動画は“2020”のカウントダウンから始まり、東急多摩田園都市の街づくりがスタートした1953年にタイムスリップ。沿線の街並みの進化が映し出されていく。
「街が、生まれ 電車が、走り ともに発展してきた。」
のコピーが物語るように、東急電鉄は、鉄道の敷設と共に、沿線に住宅を一体的に開発し、街を整備してきた企業だ。
ムービーでは、田園都市線の開通式、たまプラーザ東急ショッピングセンターのオープン、二子玉川ライズ開業など、電車と街の歴史を追い、その合間には沿線に住む人々が登場する。
「50年間、この街と暮らしてきた」という小料理屋の夫婦や、「40年来の幼馴染が、今ではママ友」という女性たち、「部活帰り、ここで告白されました」と恋話を披露する高校生など年齢や関係性も多様だ。
ムービーでは、空気清浄機付きといった新型車両自体の紹介もされるが、大半を占めるのが、街と人、そして電車のストーリー。制作した東急エージェンシー、コミュニケーションデザイナーの月足勇人氏は、企画意図をこう話す。
「当初は撮影を想定しておらず、過去のアーカイブデータを活用することで田園都市線のこれまでを描き、これからの田園都市線に期待してもらう、といった内容でした。しかし、田園都市線のストーリーを描こうとしたときに欠かせなかったのは、その沿線の街に住む人々の存在でした。何よりも、そんな沿線の人々への想いが詰まった車両こそが新型車両『2020系』でした。
その街と人にとって“いい電車”とは何か、から発想して車両を形づくる姿勢は、街づくりから始まった歴史を持つ東急電鉄の強いメッセージだと思い、それをコアに置きながら全体のストーリーを組み立てています。
鉄道や街の歴史は、その沿線に住んでいる人自身の歴史でもあるという点に着目し、鉄道や街の歴史とリンクする形で、沿線の人々が持つパーソナルな歴史を紹介する、というフレームで展開しました」。
また、リアルな場でのメッセージ発信も行っている。これからの歴史を作っていく沿線の子供たちを集めて、2020系の試乗体験をしてもらい、新型車両の絵を描いてもらうイベントを実施。イベントで描いた絵は新型車両内の中づり広告でも活用され、絵を描く姿は、ムービーにも納められた。
2022年に創立100周年を迎える東急電鉄は、「日本一住みたい沿線 東急沿線」をミッションの一つに掲げてきた。2020系が走る田園都市線沿線において、未来を見据えたまちづくりが実際に進んでいることについても最後に触れておきたい。
従来デベロッパーは、住宅や商業施設の開発、運営の目途がつくと立ち去るのが一般的だが、例えば開発から約50年が経過する田園都市線「たまプラーザ駅」周辺では現在、東急電鉄、横浜市、住民、学識者の産学公民で取り組むまちづくりプロジェクトが行われており、住民主体の活動のサポートや、地域コミュニティの形成といった、持続可能なまちづくりに向けた活動も行っている(詳細は書籍『次世代郊外まちづくり~産学公民によるまちのデザイン』にその実録が詳しく載っている)。
新たな車両も、街と人をつなぎ、歴史をつくっていく存在となっていくだろう。ムービー「My Home Train 2020」2分30秒バージョンは、東急電鉄「2020系」1編成車内で、6月下旬まで放映。30秒バージョンはTOQビジョンで5月27日まで放映予定だ。
スタッフリスト
- ○企画制作
- 東急エージェンシー+AOI Pro.
- ○CD
- 野口大介
- ○企画
- 月足勇人
- ○PR
- 富原大雅、角谷淳
- ○PM
- 三須大輔
- ○演出
- 長嶺秀俊
- ○撮影
- 山西英二
- ○編集
- 瀧澤あゆみ
- ○カラリスト
- 北山夢人
- ○音楽
- 梅本俊樹、Mr.D
- ○AE
- 清水誠、小島光昭