【座談会】“素直な”イノベーションが未来をつくる! 暦本純一氏×鈴木堅之氏×近山知史氏

誰も気づいていなかった価値

近山:初めて鈴木社長とお会いした時、立石一真さんというオムロンの創業者であり日本を代表するイノベーターの言葉をご紹介しました。立石さんの考えるイノベーションとは、3つの条件を満たしていなければいけないそうです。1つは科学的発見があること。2つめはそれを実現する技術革新があること。3つめは社会的変化が起こること。

ではCOGYはどうかというと、すべて満たせるポテンシャルはあるのに、最後の1つについては “誰も気づけていない”状態にあるのではないかとお話ししました。だからこそ、単なる「足こぎ車いす」ではなく、「あきらめない人の車いす」という社会にとっての明快なポジショニングを示し、もう一度ローンチしましょうと提案しました。ACCでの受賞も大きなきっかけのひとつとして、今まさに世界中に「こんな車いすがあったんだ」という気づきが広がっている最中だと思います。何しろ僕も、「足の動かない人が漕げるわけないでしょ、詐欺なんじゃないか」と思っていたくらいですから。失礼な話ですが。

鈴木:そうですよね(笑)。

暦本:COGYのすごいところは、乗ったら楽しいんですよね。審査委員たちが嬉々として漕いでいたでしょう。こういうのって、義務感とか、介護されている感とか、そういうことではなくて乗っている人が嬉しいというところが根源にあると思います。三輪車に初めて乗った時の感動を思い出せたような気しました。どんなに高齢者になっても、楽しめるという前提がある。介護する側が、この楽しいものに自分も将来お世話になりたいという風に広がったらいいですよね。

鈴木:それって、すごく新しい発想ですよね。普通の車いすや医療機器なら、健康な人が「使ってみたい」という思いにはなかなかなりませんからね。こういう賞は「自分も乗ってみたい」と思えるきっかけの場となってくれます。私も昨年、公開審査でほかの作品を見せていただいた時、どれも体験してみたいと思う物ばかりでした。

近山:手を一本増やすという「MetaLimbs」のプレゼンで印象的だったのが、開発のきっかけを審査員の方に尋ねられ、「なんかすごくおもしろそうだったから」みたいなことをおっしゃっていて。こういう感性的なスタートは、ありきたりなマーケットニーズに頼るよりずっとリアルだし強いなと思いました。カンヌもそうですが、ACCの上位概念も今や、広告ではなくクリエイティビティ。今後もっと広告臭がなくなっていくし、この部門に関してはすでにないと思います。

次ページ 「業種を超えた「ごった煮」からマッチングを生みたい」へ続く

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