「想像」を述べなかった宮川選手の話し方
あえていうことでもないが、日大の広報の戦略は「ない」と思われる。
今からでも遅くない。日大はPR会社などを雇って適切なアドバイスを受けたほうがいい。
このままでは大学のブランドイメージを棄損し、例えば就職活動中の学生が採用で差別を受けるかもしれない。実際、卒業生も含め多くの日大関係者が嫌な思いをしているだろう。
雑誌『広報会議』の企画で、PRのキーマンが「もし、今の日大の広報にアドバイザーを依頼されたらどうする?」という企画があったらぜひとも読んでみたいと思っている。きっと勉強になるケーススタディになるだろう。ボクもシミュレーションしながら日大の打開策を考えている。
そんな宮川選手の「逆転劇」とも言える広報戦略を立案し、実行したのは誰なのか。
選手本人でもご家族でもないと思われる。業界の噂でもプロの広報マンが雇われたという話は伝わってこない。
戦略をつくり世論を動かしたのは、宮川選手の会見に寄り添っていた2人の弁護士だったと筆者は推測する。
多摩パブリック法律事務所の西畠正弁護士と薬師寺孝亮弁護士の2人である。弁護士事務所の公式プロフィールを読むと、社会的弱者に寄り添う雰囲気が漂う。西畠弁護士は有名な労災事件も担当しているベテランで、薬師寺弁護士に関しては、これまでの活躍はあまり詳しく書かれてない。
2人は今回、世論を動かす戦略を立案したが、労災認定も同様の戦略が望ましい。会社などの組織は労災を認めたがらないのはご存じの通り。そんな時、勤怠表や日記など、証拠を積み重ねて追及していくわけだが、大きな役割を担うのが世論である。
そういった側面で、世論を見事に動かすことに成功したのが宮川選手の会見である。司会も見事で、記者よりも一方上手であることは明白だ。
特に、宮川選手に余分なことを一言も言わせなかったのは素晴らしい。彼は事実と自分の思いだけを述べ、「想像」を述べなかった。
無策の日大は今、完全に悪者にされている。もし、これで宮川選手が刑事告訴され責任を問われたら、日大という組織を世論が許さないだろう。
真実は当事者にしか分からない。
でも今、宮川選手には、何百万人、何千万人という味方がいる。
そういった空気を、マスコミをはじめSNS上や世の中の会話の中で醸成できたことに“あっぱれ!”と言いたい。
一方、日大は「自分たちに責任はありません」ということをマスコミに伝えようとしている。それでは、混んでいる電車の中で痴漢の疑いをかけられ「痴漢をしていません」というのを証明するのと同じくらい難しい。疑いを晴らすばかりか、逆効果だ。
宮川選手と弁護士たちは、責任を素直に認めた上で、事実を話した。そして味方を作ることに見事成功した。今回の戦略を実行した成果は賞賛に値する。
今後もこの件の推移を見守りたい。
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