「目に見えない効果」に大きな価値がある
藤崎:モニター前に東京と大阪でイベントを行ったということですが、リアルイベントは企業とユーザーが顔を合わせることができる大切な場です。どんな点に注力しましたか。
堀:イベントには普段、表には出ない商品企画者や開発者も多く出席し、製品の紹介や開発秘話、座談会などを行いました。せっかく足を運んでいただいたのに、普通の製品発表会になってはつまらないだろうと考えて、普段なら出せないけれど、こういったクローズドな会ならば、というお話も披露しました。グループ分けしたヒアリングでも「この人は開発者だから何でも聞いてください」という感じで、気軽に質問していただけるようにしました。
藤崎:それは参加者にとって嬉しいですね。反響はいかがでしたか?
堀:開発側の人と話す機会は、通常あまりないので非常に喜ばれました。みなさんの目が輝いていました。
藤崎:「PRO TREK Smart WSD-F20」の商品企画担当者は女性の方ですよね。アウトドア製品と聞いて、私は最初にゴツイ男性の方を勝手にイメージしていたので意外でした。
堀:開発部門の岡田佳代という女性社員がこのプロジェクトを統括することになったのは、性別は関係なく、もともと彼女の趣味が登山だったからです。弊社の場合、開発に携わる担当者は、必須条件ではありませんが、本人の趣味と仕事が一致している場合が多いですね。楽器の開発者も、音楽が趣味だったり、デジカメの担当者もカメラが趣味だったりとか。
藤崎:興味関心がある分野は力が入るということでしょうか。
堀:仕事が自分の趣味と一致すると「自分事」になるため、本人の「思い」も自然と入ってきます。それが重要です。岡田の場合も、山登りならではの使い勝手を製品に反映させようと考えますし、開発中も実際に使って試しています。そのように山に登る人の気持ちをよくわかって開発を進めていくことで、製品に自然と魂が宿っていくわけです。
藤崎:イベント参加者にとっては開発担当者が実際に登山をしているアウトドアの仲間だと知ると、きっと特別な仲間感が生まれますよね。そういう人が開発担当者と知ることで製品への信頼度も高まりますし、「そうした人を開発担当者に据えるカシオっていいよね」というブランディングにもつながっているはずです。
堀:確かにそうですね。また、今回のイベントでは違う効果も生まれました。あまり知られていませんが、開発部門の社員は、お客様の声を直接聞く機会がほとんどないのが実際です。ですから、アンバサダーの方に喜んでいただけただけでなく、開発メンバーがユーザーのリアクションに直接触れることができたことは、とても良い機会でした。その意味では、社内のエンジニアのモチベーションアップにもつながったのが、この施策のもうひとつの「目に見えない効果」です。
藤崎:なるほど。社内向けにも今回の取り組みの効果があったということですね。
堀:開発者にとって、自分が作ったものがどのようにユーザーに伝わり、どんな風に使っていただいているのかは、とても重要です。こうしたことをユーザーから直接聞くのと、営業部門などから届く間接的なレポートで、グラフになったものを見るのとでは全く違います。対面した際の、ちょっとした一言や笑顔だったり、リアクションだったり。そういう定性的な部分から受け取るメッセージがとても大事です。その点で大きな手応えがありました。こうした開発者とユーザーの交流は今後も重視したいと思いますし、フィードバックの場を持つことは、メーカーとしてのあるべき姿だと思いました。