本件に関して、日大側が開いた3度の会見から学ぶべきこととは。20年以上危機管理広報のコンサルティングに携わり、2018年2月に著書『危機管理&メディア対応 新ハンドブック』(宣伝会議刊)を発売した山口明雄氏(アクセスイースト代表)が2回にわたって分析する。
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20日経っても何一つ説明はなし
5月24日、司会を務めた日大広報部員が逆ギレした「ドタバタ会見」は、同大学の上層部をさらに追い詰めることになった。25日には日大の学長が午後3時30分から緊急記者会見を開催。メディアに送った通知は開始の1時間前だった。
学長の会見も、大げさな謝罪文句で始まった。「被害選手、保護者、関西学院大関係者には謝っても謝りきれない」と。また、日大アメフット部選手が一人で会見したことについては「特に当該の選手を一人記者会見に立たせ、追い込んでしまったことに責任を痛感している」と話した。
しかし、これも正確には謝罪ではない。選手が反則プレーをするに至った経緯や、選手を記者会見に追い込んだ理由については何一つ説明していないからだ。それができなければ、「慇懃無礼会見」と言うしかない。学長は私の現状認識は変わらないと言っているのだから、日大アメフット部選手に責任があるとの広報コメントをしているだけだ。
この会見までにメディアは、次々と日大の主張に対する反論の根拠となる客観的事実を報道している。「監督がラフプレーを見ていないはずがない」「15ヤードも罰退させられ、アナウンスもあったのに何が起こったのか分かっていないなどあり得ない」……。現役の選手やOBらも、井上コーチが何人もの選手に「相手チームの選手にケガをさせろ」と指示をしたとの証言をしている。
発生から20日も経ち、数々の報道が出ている中、原因の判断が何一つ自分でできない学長なら無能力を認めてしかるべき責任を取るべきではないか。それが日大の学生・生徒、関係者大多数の願いだろう。
第三者委員会は「印籠」ではない
学長の冒頭スピーチを詳しく聞くと、さらに慇懃無礼ぶりが露呈する。「記者会見に集まってもらった目的の一つは、日大の学生・生徒、父兄、関係者にお詫びを伝えるためだ」と言うのだ。12万人もいる学生と生徒の一人ひとりに、学校の一つひとつを自分が直接訪問できないので、メディアの時間をお借りして、説明をすると言う。これは、公私混同ではないか。日大関係者以外の何百倍もの人たちがこの会見を見て、不快に感じていることはまったく理解できないようだ。学長は言った。「前監督・コーチと日大アメフット部選手との間の齟齬は、私には判断できない、(日大が設立予定の)第三者委員会に究明を任せる」と。
私は、顧客に、「“第三者委員会”を水戸黄門の印籠みたいに掲げることは、もうやめなさい」とアドバイスしている。自分たちが雇った委員会で公平な原因究明などできるはずがない、そんな委員会の報告に国民は納得しない。ことあるごとに繰り返される「第三者委員会」の錦の御旗は、当面の言い逃れ手段だと、国民の大部分が感じている。私は第三者委員会の真の役割は「確実な再発防止策を策定すること」だと思っている。
実際、日大アメフット部が加盟する「関東学生連盟」は29日、臨時理事会で内田前監督と井上元コーチによる反則の指示を認めた。「内田監督の記者会見での発言はほとんど信用性がない」ともコメントし、2人を罰則規定で最も重い除名処分とした。日大の第三者委員会よりも、理事会の判断の方が断然、国民が納得しやすい情報であることは間違いない。
ではどのような対応が好ましいか。例えば、2017年12月に新幹線の台車に破断寸前の亀裂が見つかった事故の例を挙げる。事故の場合は特に直接の原因解明に時間を要することが多いが、JR西日本はただちに謝罪した。途中で何度も運行を止められる機会を逃したという点で「不祥事」があったため、その点を速やかに認めた形だった。
不祥事や事件の場合、真っ先に原因を把握できるのは第三者ではない。組織内の人間であり、トップである。そのために多くの部下がいるのだ。私は20年以上危機管理のコンサルタントを務め、この間に、いくつか世間から大きく注目された不祥事や事件のメディア対応に関わったことがあるが、ひとつハッキリ言えることは、「どんな不祥事であれ事件であれ、自分自身で原因を判断できない経営者には、ただの一人も出会ったことがない」ということだ。
謝罪会見は1~2回で済ませる
原因を判断するのは前提として、問題は不祥事やその原因をどのように発表するか、である。できるだけ速やかに、正直に、原因のすべてを国民と関係者に発表することが重要だ。
私は、謝罪の必要がある場合には、「一刻も早く“謝罪相手”と“謝罪の理由”を明確にして、詫びるべきだ」とアドバイスしている。倫理観だけでそんなアドバイスをしているのではない。そうすれば報道は長引かず、結果的に一度きりの記者会見で幕引きとなる場合が少なくないからだ。
日大広報からは余計なことは言うなと叱られるかもしれないが、経験上、謝罪会見は1~2回で済ますことができれば、ブランドは大きく傷つかない。逆に、国民が納得行かない形の会見を実施してしまったがために延々と問題を引きずると、取り返しのきかない結果を招く。そんなケースはいくつも見てきた。
日大の支離滅裂・慇懃無礼会見の顛末は?
今回の事件に関して、過去の不祥事を事例に「過去事例でも日大のブランドや志願者数は落ちなかったのだから、今回も落ちない」とする意見もあるが、私はそうは思わない。なぜなら、この事件はセクハラ・パワハラ問題や、窃盗・傷害、研究の不正発表などの個人の倫理の問題とは違い、もっと根源的な人間形成のあり方が問われている問題だからだ。大学の役割である「教育」の根幹に触れる議論にも発展している。
私の顧客の何社かは、今回の事件を見て「危機管理広報の体制をしっかり見直さなくては」と気を引き締めていた。「反面教師」という言葉がある。日大は、このままズルズルと事件を長引かせれば、反面教師の教育機関として歴史に名を残すことになるかもしれない。
アクセスイースト 代表取締役
山口明雄(やまぐち・あきお)
東京外語大学を卒業後、NHKに入局。日本マクドネル・ダグラスで広報・宣伝マネージャーを務めたのを皮切りに、ヒル・アンド・ノウルトン・ジャパンで日本支社長、オズマピーアールで取締役副社長を務める。現在はアクセスイーストで国内外の企業に広報サービスを提供している。2018年2月、『危機管理&メディア対応 新ハンドブック』(宣伝会議刊)発売。