10年後も輝けるブランドでありたい
河野:お茶を飲みながらアイデアを出し議論を深める「茶ッカソン」は、お茶の会社である伊藤園らしいユニークな取り組みですね。企画に至った背景について教えていただけますか。
角野:私がシリコンバレーに駐在していた2015年に、現地のオープンなコミュニティの考え方に触発されて、河原あずさん(当時ニフティ在籍)と以下のようなことを話しながら、一緒に企画を作りました。「茶会」は500年も前の千利休の時代から開かれていました。そこに参加していた武将たちは、戦や政治から民衆のことに至るまで、きっと様々なことについて話し合っていたはず。それこそ「ハッカソン」のようなことが行われていたのではないかと思ったことがきっかけです。
お茶には4つほどの特性があると考えています。1においしさ,2に健康性、3にコミュニケーションのきっかけ、4に心の健康のサポート効果、といったことです。茶ッカソンに参加した皆さんにこうしたお茶の良さを感じてもらうとともに、伊藤園を身近な存在と思ってもらいたい。「お~いお茶」はこんな人たちがつくっているんだ、ということを知ってもらうことも意味があると考えています。
河野:まさにブランドを浸透させていく取り組みですね。
角野:伊藤園には厚生労働省認定「伊藤園ティーテイスター社内検定」という資格制度があります。筆記と論文、面接、検茶からなるのですが、社員約5000人のうち、2000人以上がこの資格を持っています。お茶について自分の言葉で語れる人がこれほどいる会社は、国内はもとより世界にも少ないのではないでしょうか。このことは当社の大きな強みだと思います。
現在私は、1年前に立ち上がった「デジタルコミュニケーション室」に所属しています。茶ッカソンのような取り組みは、デジタルとは縁遠いと思われるかもしれませんが、伊藤園ならではのリソースを使っていかに他社とは違うことができるかにチャレンジしています。「伊藤園や『お~いお茶』が、5年後、10年後もキラキラと輝いているブランドであってほしい」という思いで取り組んでいます。
河野:大きなビジョンを描いて力強く進めていらっしゃると感じます。私たちは、ブランドを成長させていくための支援の一環でIT活用をご提案することが多いですが、ご要望に多いのは実は組織のつくり方や人材育成だったりします。社内をどう説得するか、まとめていくかといったことも含まれます。
角野:それはまさに私が悩んでいることでもあります。
河野:今のお話を伺うと、むしろ進んでいるのではないでしょうか。一般的にブランドの大切さは広く理解されるようになりましたが、具体的な行動にまでに至らない会社がまだ多いと思います。その理由のひとつに、ブランディングの取り組みが日々の売上・利益に直結するものではないことがあります。
角野:それは私たちも同じです。コンビニエンスストアで週に何本、日に何本売れたかを追いかけていますので。それはもちろん重要ですが、これからの伊藤園ブランドをつくっていくことも大事だという思いで取り組んでいます。