シリコンバレーで優れた商品力に気づく
河野:角野さんは米国駐在時代、シリコンバレーの名だたるIT企業に「お~いお茶」を置いてもらうことで、お茶ブームを巻き起こしたことでも知られています。このことが現在の仕事にもつながっているのですか。
角野:まさに、伊藤園の強みについて認識したのも米国での経験があってこそです。
サンフランシスコに赴任して1年くらいは、問屋さんに営業していましたが、なかなかうまく行きませんでした。「伊藤園」も「お~いお茶」も認知は無く、無糖茶を飲む習慣もありませんでしたから、道のりは遠いと感じていました。
そんな中で、IT企業のオフィスにあるフリードリンクの冷蔵庫に置けないかと営業をしてみることにしました。ただ、こちらも一筋縄では行きませんでした。営業しても箸にも棒にもかからない。すると、外村仁さん(当時エバーノート日本法人会長)から「シリコンバレーはエンジニアの街だから、まずは彼ら彼女らと仲良くなってどんなことを考えているか理解すべき」とアドバイスを受けました。
そこで、セミナーや勉強会、ハッカソンなどのイベントに夜な夜な出かけ、「お~いお茶」とバケツと氷を持って回りました。当初は商品の話はせず、徐々に向こうから「何をしてるんだ?」と声をかけてもらって徐々に打ち解けていきました。GoogleやFacebookなどのカフェテリアに置かれ、社員の間で「お~いお茶」が話題に上るようになったら勝てるのではないか、そんな思いで取り組むうちに、徐々に協力を得られるようになったのです。
ここまでは、私の営業の成功ストーリーに聞こえるかもしれませんが、肝心なのはこの後です。シリコンバレーの大手IT企業の冷蔵庫は実は激戦区です。そのため、試験的に導入されても3カ月で棚からカットされてしまうことが多いのですが、うちの商品はどこでも売れ続け、継続的に置かれるようになりました。プロダクトの勝利だと実感しました。
この光景を目の当たりにして、「日本に帰ろう」と決めました。毎日お茶のテイスティングをしている商品担当やマーケティング担当にこのことを伝えたかったのです。本当はシリコンバレーの次にハリウッドに行こうと思っていたのですが(笑)。
河野:商品の力を実感されたのですね。確かに、商品は技術やノウハウの結晶であるにもかかわらず、内部の人ほどそのすごさに気づいていないケースは多いものです。この時の角野さんのように、ふと立ち止まって考えたり、前向きなチャレンジができる人というのはブランディングに携わる人の適性と言えるかも知れません。角野さんがこれから力を入れたいのはどんなことですか。
角野:伊藤園には様々な素晴らしい資産があると話してきましたが、これらをもっと伝えていきたい。ブランディングとは、「なんかいいよね」と思ってもらえることではないでしょうか。CSRの取り組みやいくつものスローガンが社内にもありますが、「なんかいいよね」がもっとほしい。私よりも若い社員には夢がある会社だと感じてもらいたい。そのために必要なのは、ブランドメッセージの言語化なのか……思いを巡らせているところです。
角野賢一(かくの・けんいち)
伊藤園 広告宣伝部デジタルコミュニケーション室。2001年伊藤園に入社。営業などを経て2008年ITO EN(North America)INC.に出向。シリコンバレーで新たな流通網を切り開く。2014年帰国し、広告宣伝部に所属。
河野貴伸(こうの・たかのぶ)
フラクタ 代表取締役。企業のブランディングを推進するサービス・テクノロジーを提供するフラクタを2013年設立。EC-CUBEエバンジェリスト、Shopifyエバンジェリスト。