前回の記事「プロジェクトは発酵させよ!「発酵文化人類学」の著者が語るその意外な共通点とは」では、小倉ヒラクさんが山梨で行っている、「自宅の半径2キロメートル圏内から新しい菌を発見する」というプロジェクトを、エンジニアリング型/ブリコラージュ型という分類で考えました。2記事目となる今回は、発酵の仕組みからコミュニティマネジメントを考えます。
デザインとデザイノイド
小倉:生物学者のリチャード・ドーキンスに、「デザイン」と「デザイノイド」っていう比較的地味な、僕が大好きな概念があります。どういう概念かと言うと、カメラと昆虫の目って、構造的には同じものなんだそうです。だけど、そこに至るプロセスが全然違っていて。カメラは人間が「写真を撮りたい」っていう明確な目標の上に作って行ったデザインなんだけれど、昆虫の目は「たまたま光を多く取り込んだ個体が生き延び易かった」からそういう構造になったんですね。予め目的があったわけではないんだけど、結果的に同じ機能を生んでいるものを「デザイノイド」と呼んでいるんです。
僕はプロジェクトも、デザイン型とデザイノイド型があると思うんですよね。プロセス自体がデザインの機能を生み出してしまうようなやり方。今のいわゆるプロジェクトマネジメントのような、「ある目的に到達するための、抜け漏れのない、一番効率のいいやり方」ではなくて、「プロセスの中にクリエイティビティが埋め込まれているようなやり方」があるはずなんです。
前田:すごくよくわかります。この本の基本的な考え方は、「プロジェクトって管理できないよね」ということで。その代わりに「編集」という言葉を使っています。「管理」しようとすると、普通の人はなるだけリニアで、効率的で、費用対効果が最も良いプロジェクトプランを描こうとします。でもそれって、実は情報が揃っていて不確定要素が少ないことを前提としているんですよ。
小倉:そうですよね
前田:新規事業系のプロジェクトの場合、管理っていう方法で挑んでいると、想定外の事態が起こった時に「つぶす」「無視する」「おののく」のいずれかのマインドになってしまうんですよね。「これは全然予想していなかった」「これに当てる予算はない」って。
小倉:僕は、そういう「不測の事態=逸脱」こそがプロジェクトにおける最大のアウトカムだと思っていて。普通は「ゴールにたどり着く」というのがプロジェクトの目的だと思われているんですけど、僕の場合「そんなはずではなかった」「いつの間にかそれが前提になってしまった」という逸脱から、ほとんどのクリエイティブが生まれています。
前田:先日お会いした情熱大陸のプロデューサー、大島新さんも「想定外の事態が起きた時に一番面白い画が撮れる」と言っていました。
何かを撮ろうとしたときに、最初にこういう話を振って、こういう反応をされるだろうからこう返して……っていうのを、一応予想していくんだそうです。だけど、カメラを持って現場に行ってみると、こちらが想定していたことを言ってくれなかったり、逆に思ってもいなかったこと言われたり、ということが起こる。でも、そういう想定もしていなかったものが撮れてしまったときにこそ、じつは作品はすごくいいものになる。逆に想定した通りものが撮れた時って、すごくつまんないものだったりするんだそうです。いまの話にすごく繋がりを感じました。
書籍案内
『予定通り進まないプロジェクトの進め方』(3月29日発売)
ルーティンではない、すなわち「予定通り進まない」すべての仕事は、プロジェクトであると言うことができます。本書では、それを「管理」するのではなく「編集」するスキルを身につけることによって、成功に導く方法を解き明かします。