約1万5000人を巻き込んだ、虫コナーズの実現企画
最後は、大日本除虫菊の課題で「『吊るしっぱなしをなしにしたい』虫コナーズを毎年買い換えていただける企画」というもの。吊るすタイプの虫よけ製品だが、規定どおりに交換されず、「吊るしっぱなし」になっているのが課題だった。
応募者の平田氏の企画は「お知らせキターズ」。商品に同封した専用ハガキの裏面に、「1年後の自分」に宛てたメッセージや絵などを自由に記入し、投函。約1年後、投函者のもとにハガキが送られてくるという企画。買い替えタイミングであることを思い出すきっかけになるのがポイント。クローズドキャンペーンも同時に開催し、さらに購入を後押しする企画となった。
平田:「虫コナーズ」の購入頻度が人や地域によって異なることや、商品が日数別に3タイプあることから、マス広告で多くの人にお知らせするよりも、「個人に向けた明確なお知らせにする」ことを自分の制約にしました。
またターゲットが40歳代の主婦の方だったので、プッシュ通知メールやアプリは使用しないことにしました。重視したのは、「生活者にとって楽しく好意的に受け取ってもらえるもの」ということです。
企画は、小学生がハタチの自分に向けて手紙を書き、それが20歳の時に送られてくる、という教育施策のひとつが大本にあります。商品にハガキを封入し、ポストに投函すると、1年後に返ってくる。それが、買い替えを思い出させる「個人に向けたお知らせ」になる、ということです。
それが大日本除虫菊のご担当の方の目にとまり、実現いただくことになったのですが、3月から5月末までで、1万5000人近くの方からハガキが寄せられました。いまも1週間に2000通近くが届きます。
1年後の返送の後、購入に結びつくかどうか、検証するのが、今後のテーマのひとつです。
嶋:実際に人が動き、日本のどこかで毎週2000人が1年後のことを考えている。これはすごいことですよね。
また最近だとデジタル手法を前提にした企画が多いのですが、スマホがすべての課題の最適解ではない。きょう発表していただいた方々の企画はすべてそうですが、アナログな手法が最もいい方法であることもある。
桜田:商品やターゲットについてしっかり研究した上で考えられたプランは、広告主にとっても読みたくなるものです。設定されたコンセプトを「未来の自分への手紙」という古典的なコンテンツに落とし込まれたのがとても上手。誰かがいつかやってみたいと思っていることの手助けを、企業が手伝ってあげる企画は、何も言わなくても応募が集まったりします。
良い企画というのは、終わった時にお客さんも関係者も全員が、「やって良かった」と思えるものが多いです。そういう意味でも、本当に「良い」企画ではないかと感じました。
審査員の両名から、応募者へのメッセージ
桜田:過去の企画を振り返ると、「受賞をする企画」と「企業が採用する企画」は異なると思っています。「わかりやすさ」は双方重要ですが、前者はB to Cで消費者にダイレクトに響くものや目新しいもの、後者はB to Bで流通サイドに響くものが重視されている気がします。応募する際に賞狙いなのか、実現狙いなのかを決めるのもひとつの戦略かもしれませんね。
嶋:プロモーションは誰の“ボタン”を押すかがポイントで、メーカーであれば、最終消費者のボタンを押してもいいし、小売り側がより多く仕入れたくなる“ボタン”を押すのでもいいんです。
たとえば「本屋大賞」が押しているのは、読者ではなく、書店員のボタン。「本当に売りたい本を売りたい」という、売り場のインサイトを汲み取ったものなんです。
審査会では、そういった視点で、この企画は誰のボタンを押すのか、つまり、それで本当に動いてもらえるのか、という点を見ています。最終消費者がどう思うかというリアリティもそうですが、流通サイドにとってのリアリティ、という観点もあります。
企画を考える際、「ひとはこう動くだろう」と予測するわけですが、人は不器用なので、一番、言語化・可視化しなくてはいけない大切なところを、ほとんど言葉にできていません。
冒頭お話ししたように、アイデア・リアリティ・フィージビリティの3つを念頭において、われわれ審査員の心もガッとつかむような企画に出合えると嬉しいと思っています。ぜひよろしくお願いします。