ジェイコブズの「人間」を中心とした都市の視点
ジェイコブズは同じ都市を観察しながら、モーゼスとはまったく異なる意見を持っていました。彼女によれば、都市とは一見混沌に見えていても、無意味なのではなく、人々による現実的な解決と秩序によって成り立っており、またそのおかげで変化や運動を絶え間なく作り出し、それ自体がエネルギーとなっていると主張します。ジェイコブズはモーゼスの作り出した住宅を批判し、それらは確かに「美しく安定」しているが、それは「墓」のように死んでいると指摘しました。
ジェイコブズの視点とは、都市とはモーゼスのような近代主義者が考えているほど、単純な機能の集合体ではない、ということです。都市を機能的に分解したのが、ゾーニングの発想ですが、それによって都市のエネルギー源となるような人々の交わりが失われてしまうのです。実際にモーゼスのような考え方に沿って作られたセントルイスの公共住宅であったブルーイット・アイゴーは広い街路は閑散として人々の交流がなくなり、次第にスラム化し、逆に犯罪の温床になって、最終的には取り壊されることになりました。