なぜACC賞にデザインのカテゴリーをつくったのか。 「ブランデッド・コミュニケーション」部門 審査委員座談会Part1

全員美学が違うからこそ、議論することに意味がある

イム ジョンホさん

イム:どういうものが評価されるか、どういう文脈で評価されるかというのは、審査委員15人の空気感で決まっていくイメージなんですか。

中村:それはでも、それぞれの価値観でしかないんじゃない?

イム:なるほど。

菅野:それはたぶん、このメンバーで議論すること自体に価値がある。さっき勇吾さんが言った議事録じゃないけど、良い仕事って何かを発見するプロセス自体に大きな今回の価値があるかな、と。もしかしたら結果というより、プロセス自体に意味がありそうだと思っています。

中村:今の話はすごくわかります。「これ普通にめっちゃよくできてるじゃん」というのがあるじゃないですか。アニメがすごくなめらかで、コマ取りがとにかくうまいというような。でも絶対、スルーじゃないですか。ただ、そこを言っておくことには価値があると思う。金賞は難しいと思うんだけど、「普通によくできてる」とか。最終的には多数決になるけど、やっぱり「これはいい」と言っておく。それが記録に残って伝わるということが。

イム:最初菅野さんから審査委員に誘われた時、「いや僕は全然そういうのを俯瞰的に見られないし、あんまり知らないんだよな」と思ったんですよ。でも逆に、そういう僕みたいな人が評価するのがあってもいいかなと、やってみようと思ったんですよ。

菅野:そういう意味では、ここにいる全員、美学が違う可能性があります。別に信じている宗教が同じ人を集める必然性もないかなと。「デザイナー」「アートディレクター」と同じ肩書きで呼ばれるけど、生息領域と宗教が違う人にあえてお願いしたんです。ケンカしてもおもしろいと思う。議論やディスカッションが起こることは健全だから、そんな部門があってもいいのかなと。

イム:本当にそう。どう収拾つけるんだろう。

小杉 幸一さん

小杉:勇吾さんはADCのオンスクリーンメディア部門の審査の時も、みんながわからないところをちゃんと翻訳してくれて、すごい説得力と安心感があるんですよ。立場や信じている宗教が例え違っても、なぜ優れたものなのかを翻訳して言語化し、理解させてくれることがくれることが、すごい価値。勇吾さんの「これがいい」「なぜなら」という姿勢がすごくポジティブなんです。そうすると、いいところを積極的に自分も見つけようとポジティブな気持ちになる。

菅野:この審査委員だと、ひとつの仕事に対して評価が分散しすぎる可能性もあるよね。9点入れた人がいるのに、2点の人もいる。そんなこんなで全体の平均が4点になって、足切りになっちゃうかもしれなくて。その場合、誰かの9がついた時点で一度議論の俎上に乗せるべきだ、という判断もあると思うのね。ワイルドカード的に、というか。

イム:たしかに。

中村:そうですね。

菅野:そのワイルドカードを出した人が、なぜよいと思ったのかをプレゼンして、それで再投票しても2点だったら、2点でもいいんですけど。

中村:一次審査を点数で、ということ自体変えてみたら。例えばそれぞれ、ベスト10を選んで持ってきて、なぜよかったのか説明をするとか。10は大変か、5個でいいか。

イム:5個でも大変ですよ。

中村:ひとつにつき2、3分しゃべって。そういうのもおもしろいな、と今適当に言っただけですけど。

菅野:フィルム部門の審査をした時、歴史の長い部門だからある種の“コミュニティの中で共有される価値観”みたいなものがある程度熟成されているのか、“CMとはこういうのが褒められる”という共通認識がある気がしたんですよ。一方でADというか、デザイナーって宗教が分かれている気がしたんですけど、そんなことないのかな。

イム:いや、ありますよね。

中村:でも本当にクオリティが高い場合、そんなに評価は散らばらない。Webはちょっと特殊で、歴史が浅くて、これまでずっと「新しい」ことに価値があったし、これからもそうなのかな。とにかく新しいということにだいぶ比重が置かれていて、「普通にいいものは選ばなくてもいいよね」となってしまうんです。グラフィックの審査会なんかは、僕はそこは外様的に見てるんですけど、次のトレンドをつくるような新しい何かも評価されているし、オーセンティックでもちゃんといいものも評価されている。Webもだんだん当たり前のものになってきているので、そういう軸があってもいいのかなと思います。

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