甲斐莊正晃
「周年」は社員が会社を好きになるチャンス
営業の世界ではよく、「自分がその商品を好きでないと、自信を持ってお客さまに勧められない」と言われます。ヒトとヒトとのコミュニケーションの場面では、話す言葉以上に「伝える人間の感情」が大きな影響を与えるからです。それでは、あなたの会社の社員は自分の会社をどのくらい「好き」と感じているでしょうか?
そもそも入社した時から、自分の会社や商品が嫌いな社員などいないはずです。入社してくるフレッシュマン・フレッシュウーマンはだれでも、履歴書の志望動機に書いたように「会社や会社が取り扱う商品の価値」を自分なりに理解し、高く評価して入社しているはずです。しかし、入社後日々の業務を忙しくこなしている間に、自社やその商品に対して入社時に持っていた「好き」の想いが、知らず知らずに下がってしまう傾向が残念ながらあります。
「周年」は、そのような社員の会社に対する想いを甦らせる絶好のチャンスです。「周年事業」を通じて社員が取り戻した「好き」の想いは、日々の仕事を通じてお取引先やお客様など社外に広がっていきます。「周年事業」をしっかりと社内に浸透させることで、大きなビジネスの成果にも結びつき得るのです。
本稿では、今回出版されました『成功する!周年事業の進め方』の中から、社内への浸透のポイントをご紹介したいと思います。
社内への「周年事業」浸透の4つのステップとは?
消費者心理を考える時、マーケティングではAIDMAをよく使います。AIDMAは消費者の購買に関する意識・心理状態の変化を、Attention(注意を払う)、Interest(興味を持つ)、Desire(願望を抱く)、Memory(記憶する)、Action(購買する)の5つの段階で捉えて、その時消費者がどの段階にあるのかを把握します。そうすることで、消費者に対して効果があるマーケティング・アプローチを客観的に考えることができるからです。
周年事業を進めていく時も同じです。周年プロジェクトの推進でも、消費者の購買意識と同じように、社員が会社に対してどのような意識を持っているのか、周年の意義をどう捉えているか、自身と周年事業との関わりをどう考えているかなどの状況を把握します。そうすることで、周年プロジェクトを社内に浸透させる具体的な活動を挙げていくことが可能になります。
その際には、社員の意識・心理の状態を「NUDA」という4つのステップで捉えていきます。
・Notice(気づく)
社内への周年浸透の初めの段階は、周年事業の担当者だけではなく、すべての社員に会社の「周年到来」に気づき、意識してもらうことです。社員に周年への気づきを促すには、周年事業の開始を伝えるタイミングが重要となります。記念日の前後だけでスポット的に活動するのではなく、「周年イヤー」のように一定の期間継続する活動として企画するのであれば、記念日よりも一定期間前から周年事業のスタートを周知させていくことが必要です。
・Understand(理解する)
第2のステップは、社員に周年の意義を理解してもらうことです。多くの社員にとって、自分が働く会社が周年を迎えると言われても、自分の仕事との関係が見出せず、これといった関心を示さないことが普通です。社員によっては「また何か余計な仕事をやらされるのではないか?」と、あえて無関心を装うことすらあります。
それでは、どうすれば社員に会社の周年に対する興味を持ってもらえるのでしょうか。『成功する!周年事業の進め方』では、社員の興味の土台となる「3つの理解」について詳しくご紹介しています。
・Desire(願望をもつ)
Desireのステップでは、Understandのステップで獲得した「会社の社会的価値」「会社の目指す姿」「業務とお客さま・社会とのつながり」の理解にもとづき、周年プロジェクトに協力したいという意欲を社員に持ってもらうことが必要となります。
米国の心理学者アブハム・マズローは、人間の欲求のピラミッドとして有名な「欲求の五段階説」を示しましたが、この中には周年事業への参加意欲を高めるためのヒントが隠されています。『成功する!周年事業の進め方』の第5章「社内への浸透」でそのポイントを詳しくご紹介します。
・Action(行動する)
上記の3つのステップを経て業務を通した自己実現の意欲を持った社員から、周年プロジェクトへの協力を引き出すためには、もう1つ欠かせないことがあります。それは社内の環境作りです。
周年事業は期間限定の活動です。商店街で例えれば「秋祭り」でしょう。その成功には「盛り上がり」と「乗り」が欠かせません。お祭りで「盛り上がり」と「乗り」を実現するポイントは「全員参加」にあります。そのため、部署や役職に関わらずすべての社員が行動できるための体制作りが重要になってくるのです。