「マニュアル」を捨て「レシピ」を持とう 「発酵文化人類学」×「予定通り進まないプロジェクトの進め方」第3弾

マニュアルではなくレシピを持つべき理由

前田:とはいえ、全てがあいまいでは何も伝わらないですよね。

小倉:もちろんです。だから、発酵物を作るときは「マニュアル」ではなくて「レシピ」を作るようにしています。

前田:マニュアルとレシピの違いを教えてもらえますか?

小倉:レシピには「こうやったらおいしくなるよ」ということは書かれているんだけど、「この手順にはこういう意味があるんだよ」というメタ視点がない。なまじ優れたビジネスパーソンって、メタ視点を入れたがるんですよ。「そもそもこの事業の意義は」とか「これを続けるべき理由は」って。それを続けていくと、確かに洗練されたマニュアルは作れるかもしれないけど、想像を覆すような新しいものは出てこない。理由や意義が明らかにされていないレシピの方が、逸脱が起こる可能性は高いですよね。
私は基本的に、なにか謎が隠されていたほうが人間のクリエイティビティは引き出せると思っています。発酵をやってると、理由と意義とか、メタ的な視点への道がことごとく閉ざされていることに気づきます。でも100年とかの単位でみると、多様性に富んだ、信じがたいほど豊かな文化が継承されている。これはものすごい知恵があるなと思うわけですよね。

前田:なるほど。マニュアルが逸脱をできるだけ減らそうとしているのに対して、レシピは逸脱に対して開かれているんですね。
一方で不思議に思うのは、「前の代からやってるから」とかの理由で同じやり方を続けているところに、本当に新しいものは生まれるのかということで。それはともすると大企業病のように、既存のやり方を墨守する保守的な発想になりがちなのでは。

小倉:それはすごくいい質問です。結論から言うと、時間と環境に任せるしかない。
発酵では、何らかの外部的な理由–例えば、幕府の取り立てで今までのように塩が使えなくなったとか–で、今までのやり方が継続できなくなることがあります。その時、塩を1/2にしても温度が低ければ腐らない!ということに気が付いて、新しい発酵物が生まれてきたという歴史があります。自発性とか独創性とか、実はそういったものがなくても、プロジェクトに時間軸を取り入れると、環境の変化がクリエイティビティを生んでくれるんです。

前田:不測の事態が起きた時に、ちゃんとそれをキャッチして、対応できるような態勢をとっておくということですね。自ら望んだわけではなく、状況に迫られて変えたんだけども、それがプラスに転じるようなポテンシャルが大事だと。

小倉:だからレシピにしておくというのが大事なんですね。マニュアルでは不測の事態に対応できないし、うかつにそれを変更すると混乱が起きてしまうんだけど、レシピだったら「ここの塩の量ちょっと減らしてみよう」とか(いい意味での)改ざんができる。

前田:環境の制約からクリエイティブが生まれるというのは、本書のテーマにも通じるところです。
やっぱり日本って、基本的には資源が少ないと言われてきていて、だからありもので何とかするしかなかったという文化が通底していると思います。またそういうやりかたが日本人に合ってるような気もするんですよね。

小倉:日本人は、逆算思考が下手なのかもしれません。僕はそれでいいと思う。その代わりレシピを取り扱うのがすごくうまいから。個別の事情に適応して、不思議なガラパゴスをいっぱい作っていくという文化の形成の仕方でいいんじゃないかと。僕も本当は理屈っぽいからメタ視点で考えたくなっちゃうんだけど、そうすると発酵菌たちの「それはやめたほうがいいよ」という声が聞こえてくるんですね(笑)

前田:私も今度プロジェクトを進めるときは、発酵菌としてのメンバーたちの声に耳を傾けたいと思います(笑)

対談はこれで終了です。
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「発酵文化人類学」×「予定通り進まないプロジェクトの進め方」バックナンバー
「マニュアル」を捨て「レシピ」を持とう(2018.06.11)
今の時代に求められているのは「ものさし自体のクリエイション」である(2018.06.01)
プロジェクトは発酵させよ!「発酵文化人類学」の著者が語るその意外な共通点とは(2018.05.22)

イベントのご案内

「人生というプロジェクトをいかに編集するか?」~『予定通り進まないプロジェクトの進め方』~

日程:2018年06月20日(水) 19:00~21:00
場所:代官山蔦屋書店1号館 2階 イベントスペース
 


書籍案内
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ルーティンではない、すなわち「予定通り進まない」すべての仕事は、プロジェクトであると言うことができます。本書では、それを「管理」するのではなく「編集」するスキルを身につけることによって、成功に導く方法を解き明かします。

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