黄珊珊氏(BAKE) × 若松数氏(ジェイアール東日本企画)
「王道」のカテゴリーへ参入し 個性を際立たせる
若松:BAKEは「お菓子のスタートアップ」というポジションを打ち出しています。IT的なイメージの「スタートアップ」という言葉と「お菓子」の組み合わせは非常にユニークですね。
黄:私たちは「お菓子を、進化させる」というミッションを掲げています。旧態依然としたところがある洋菓子業界で、新しいことや、“お菓子屋なのに”と言われるようなことに挑戦したい。1ブランド1商品や、工房一体型の店舗づくりなどもその一環です。「お菓子のスタートアップ」というのは、こうした姿勢をわかりやすく表現したものです。
BAKEを創業し、昨年会長になった長沼真太郎は、北海道の洋菓子店「きのとや」創業家の出身で、幼い頃からお菓子が身近にありました。「きのとや」は北海道から出ないことを戦略にしていましたが、長沼は美味しいお菓子をもっとたくさんの人に広めたいと思い、「BAKE」を創業しました。
私もマーケティングを考えるときにはお菓子づくりへの思い、本気さを意識しています。
店舗のデザインは五感を刺激できることを目指しています。工房のライブ感や商品を並べたときの見え方には気を使っていますし、香りも来店のきっかけになる。香りは看板よりも効果が高い場合もあり、そういうところも今までの洋菓子屋さんにはないアプローチだと思います。
若松:「1ブランド1商品」の戦略も大きな特徴ですね。商品ラインナップを増やせば、出店リスクもコストも下げることができる。それでもこだわりを貫いているのは、やはりそこへの思いが強いのでしょうか。
黄:ブランドの1商品が売れなければそこで終わり。そういう覚悟を持ってものづくりに取り組んでいます。だからこそ原材料にもこだわっていますし、味も常に改良を続けています。そこは他社と違うところかもしれません。
若松:新しいブランドの商品を何にするか決める判断も非常に重要になると思います。
5周年記念パーティーで行われた、お菓子を擬人化したファッションショーでもブランドそれぞれの個性が大いに発揮されていました。BAKEの個性豊かな商品開発はどのように進められているのでしょうか。
黄:私たちは「8割主義」という10人いたら8人が知っている、好きということを基準に参入する商品カテゴリーを選んでいます。チーズタルトはもちろん、シュークリーム、アップルパイなど、大半の人が知っていて、好き嫌いが少ない、いわゆる「王道」のところです。
必然的にどこへ入っても後発になるので、ただ美味しいだけでは勝負できない。味はもちろんのこと、パッケージや店舗のデザインなどでユニークネスを出しています。
ファッションショーもそうですが、お菓子屋「なのに」というチャレンジは常に心がけています。
若松:BAKEの商品はパッケージや店舗がおしゃれなので、一見SNS映えを狙っているように見えて、中身のお菓子にはとても実直な美味しさを感じます。やはり本質は味ということでしょうか。
黄:はい、ただSNS映えするもの、という考えでものづくりはしていません。流行りで終わらせたくないという意識は強いですね。
ブランドを通してお客さまにどう感じてほしいか、どうなってほしいかというコンセプトを必ず立てています。そのコンセプトは、クリエイティブやマーケティングなどが、頭から煙が出るほど考えに考え抜いて形づくっています。
商品開発でも何度も試作品を食べてみて、みんなが満足したものでないと販売しません。まずは美味しさから、そこはどのブランドでもブレない部分です。