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大松:前編では、『水曜日のネコ』におけるインサイトのお話を伺いました。続いて後編は、ヤッホーブルーイングのクラフトビールブランド『僕ビール、君ビール。』についてのお話をお願いします。
稲垣:実は『僕ビール、君ビール。』の開発のきっかけはローソンさんからのお声がけで、専売ブランドとして2014年に発売しました。発売当初は1万数千ケースと小ロットでしたが、1カ月半ぐらいで完売してしまうなど好評を得て、今ではレギュラー商品になっています。
以前からローソンさんの店頭には弊社のクラフトビールを置いていただいていました。面白いのは、もともと40歳前後の男性がターゲットだった弊社のビールも、ローソンだとなぜか20~30代に売れるんです。そこで、「ここに若者を開拓するチャンスがありそうだ」と声がかかったんです。
その話を聞いて、新たに20~30代に向けたビールを作ることが決まりました。具体的には、20代前半はお酒自体をあまり飲まない傾向にあるので、20代後半から30代前半ぐらいのさまざまなモノゴトに興味・関心を持っている層をターゲットに置きました。
まずはターゲットにデプスインタビューしようと考えましたが、予算は限られている。そこで調査会社ではなく、若手社員に頼んで、30歳前後の男性で、ビールをそれほど飲まない人を集めてもらいました。
大松:外部に頼まないで自らやるというのは、素晴らしいと思います。
稲垣:インタビューでは、「何となく」や「特に理由はない」との返答が予想されるので、「なぜビールを飲まないのですか」とは聞きませんでした。
そこで、まずは「平日飲むお酒はなんですか」と聞いたんです。すると、ワインやチューハイという答えが出てきて、「それはなぜですか」、「ビールはどうですか」と深めることができました。
よく覚えているのは、お酒が好きで平日はワインを開けているが、ビールは週末しか飲まないという方の声です。金曜日になって、やっと飲んでいいという感じだと言うんです。その理由を尋ねると「おじさんくさいから」。さらに「味が嫌いなわけではなく、ビールには罪悪感があるんです」という答えを聞いて、なるほどと思いました。
これまでのビールのコミュニケーションは、メインでターゲットであるおじさんたちに向けたものでした。よくドラマでも、缶ビールはダメサラリーマンが飲むイメージで描かれますよね。そういったイメージが、刷り込まれていたんです。