ブルーノートと蔦屋書店にみるブランド価値の再編集

【前回コラム】「「モノからコトへ」の本当の意味~体験ブランディングの背景にあるもの(後半)」はこちら

製品(性能)中心から生活者(心の満足)中心へと変化した成熟社会において、ブランドが未来のお客様に恋をしてもらうために、すべきことは何か? これには「ブランド価値の再編集」という作業が欠かせません。

再編集については第3回「マーケティングの歯車までを動かす体験ブランディング」でも少し触れましたが、今回はよりわかりやすく「再編集とは何か?」をリアルに体現した2つの事例を取り上げてみたいと思います。

無断サンプリングをきっかけに「ジャズ・ヒップホップ」という新ジャンルを再編集したブルーノート

ブランド価値の再編集をものすごく簡単に言えば、「ブランドのコア価値を抽出し、それを元に新しいブランド価値をつくる(未来の事業をつくる)」ことです。

私がブランドの再編集を説明する際に、よく引き合いに出す「ブルーノート・レコード」とアーティスト「US3(アススリー)」の逸話があります。

「ブルーノート・レコード」は、言わずと知れたジャズ専門の音楽レーベル。1939年にニューヨークで創設され、50年代〜60年代にはハービー・ハンコックやマイルス・デイビス、ジミー・スミスなど、伝説的なアーティストの作品を世に送り出しています(新しいところだとノラ・ジョーンズが有名ですね)。

US3は、ロンドンを拠点に活動していたプロデューサー、ジェフ・ウィルキンソンが1992年に結成したジャズ・ヒップホップ・グループです。メジャーデビュー前、インディペンデント・レーベル時代にジャズ・ギタリスト、グラント・グリーンのブルーノート音源「Sookie Sookie」を無許可でサンプリングしたところ、アンダーグラウンドのクラブシーンで話題になりました。

当時は、サンプリングした音源の無断使用が著作権侵害だ、と多くの訴訟が頻発していた時期でしたが、ブルーノートは逆にUS3とアーティスト契約を締結し、ブルーノートの音源を自由にサンプリングすることを公式に許可したのです。

こうして1993年に発表されたファースト・アルバム『Hand On the Torch』は、それまでのブルーノートで最も売れたアルバムとなりました(レーベルとして全米初のプラチナ・アルバムを記録)。これをきっかけに、ジャズで踊る若者のトレンドが生まれ、ジャズ・ヒップホップという音楽ジャンルが確立したとともに、ブルーノートのファンが一気に新しい世代へと拡大したと言われています。

音楽業界の既成概念や先入観にとらわれず新しい価値を認めたブルーノート、そして元ネタに敬意を持って別世界を提示したUS3のクリエティブに、多くの音楽ファンが恋に落ち、ブルーノートの再評価となったのです。これはまさに「ブランド価値を再編集した」事例と言えるでしょう。

ちなみに収録されている「Cantaloop(Flip Fantasia)」は、ハービー・ハンコックの名曲「Cantaloop Island」を大胆にサンプリングした大ヒットナンバーで、きっと誰もが「あぁ、これね!」と耳にしたことがあると思いますので、お時間あればぜひ検索してみてください。

ブルーノートは音楽業界の既成概念や先入観にとらわれず、新しい価値を認めた: backyardproduction / 123RF 写真素材

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「本屋≠本を売る施設 =文化やライフスタイル、生き方を提案する空間へと再編集した蔦屋書店」へ続く

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藤井一成(ハッピーアワーズ博報堂 代表取締役社長/クリエイティブディレクター)
藤井一成(ハッピーアワーズ博報堂 代表取締役社長/クリエイティブディレクター)

1999年から博報堂でインタラクティブクリエイティブを軸に統合キャンペーンを手掛け、その後グループ内ブティック、タンバリンに参加。2016年より同社代表に就き「ハッピーアワーズ博報堂」に社名を変更。

“これでいい…”という消極的選択が溢れる成熟社会で、「ブランド」と「生活者」の関係性をアップデートする“至福”の体験価値をクリエイティブし、ブランデイングとマーケティングの両輪を動かしている。

藤井一成(ハッピーアワーズ博報堂 代表取締役社長/クリエイティブディレクター)

1999年から博報堂でインタラクティブクリエイティブを軸に統合キャンペーンを手掛け、その後グループ内ブティック、タンバリンに参加。2016年より同社代表に就き「ハッピーアワーズ博報堂」に社名を変更。

“これでいい…”という消極的選択が溢れる成熟社会で、「ブランド」と「生活者」の関係性をアップデートする“至福”の体験価値をクリエイティブし、ブランデイングとマーケティングの両輪を動かしている。

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