広告業界的に知っておくといい放送改革論議

わかりづらすぎる、放送法改革騒動の構図

あとからいろいろ調べたのですが、どうやら問題の放送法改革案は首相周辺のさる人物が作成したらしい。実際に安倍首相は、放送法の見直しに公の場で言及しています。首相とその周辺が改革したがったのは事実のようですね。ポイントとして出てくるのが、AbemaTVへの安倍首相の出演です。アーカイブで視聴できるのでご覧ください。(参考:「徹の部屋 #21」AbemaTV /2017年10月8日)

まあなんというか、実に気分よさそうな安倍首相が映っています。この時に地上波テレビとは全然違う世界が通信にあると感じたのが大きかった、という人もいます。まさかそこまで子どもなんですかね?

2月くらいから一部の人たちの間でこの放送法改革案の存在が知られて問題視され、テレビ局方面にも伝わった。3月9日に安倍首相とテレビ局トップが会食した際にこの話題になり、大げんかになったそこでテレビ局サイドは新聞社に協力を呼びかけたらしいです(この件については、『週刊文春』と『現代ビジネス』で報じられています)。

たまたま同じタイミングで共同通信がこの改革案をスクープした。それで在京の大手新聞社と地方新聞社が機を一にして一斉に改革案批判を展開した。そんな流れだったようです。

新聞社はその後も、規制改革推進会議の動きをチェックし、再び「4条撤廃」が浮上しないか、浮上したらまた徹底攻撃しようと待ちかまえていました。6月4日に規制改革推進会議がここまでの集大成と言える「第3次答申」を出しました。この時も新聞社は一斉に「第3次答申に4条撤廃盛り込まれず」と報じています。テレビ局はこの問題をほとんど伝えてきませんでしたが、この時だけは同様に「4条撤廃盛り込まれず」とニュースで伝えていました。

でもね、これまでほとんど伝えてきていないので、普通の人は何がなんだかわかりませんよね。それに規制改革推進会議は多様な規制を扱っていて、第3次答申には放送以外のこともたくさん書かれているのに、テレビでも新聞でも「4条撤廃盛り込まれず」しか伝えていない。あれ?偏った報道になっていませんか?そんなイヤミも言いたくなります。

とりあえずここまでが現状の流れです。つまり、規制改革推進会議と総務省の会議で放送の今後を議論していたところに、首相官邸が割り込もうとし、それにマスコミトップがかみついた、という形ですね。少なくとも私から見るとそうなります。これね、ある意味ではマスコミが首相の腹案を潰した、ということで、首相よりマスコミの権力が強かったと言うことです。

でもテレビ局や新聞社にはまだ、規制改革推進会議には安倍首相の息がかかっていて、油断するとまた4条撤廃の話が浮上しかねない!と警戒している人もいるようです。

放送法4条撤廃にはどんな懸念点があるか、あるいは撤廃するとしたらどんな論点が出てくるか。そのあたりを、共同通信の編集委員兼論説委員・原真氏がこんな記事にまとめています。
(※参考:東洋経済オンライン「欲しいのはAbeTV?政治と放送の危うい関係-放送局は自らの手で未来像を示すしかない」)

この記事は元々『GALAC』という放送業界の専門誌に載ったのが東洋経済オンラインに転載されたものです。闇雲に「4条撤廃けしからん」と感情的に主張するのではなく、落ち着いて論点を整理した内容。4条について語るなら、これくらいの視野で語るべきだなと納得の記事です。

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境 治(コピーライター/メディアコンサルタント)
境 治(コピーライター/メディアコンサルタント)

1962年福岡市生まれ。1987年東京大学卒業後、広告会社I&S(現I&SBBDO)に入社しコピーライターに。その後、フリーランスとして活動したあとロボット、ビデオプロモーションに勤務。2013年から再びフリーランスに。有料WEBマガジン「テレビとネットの横断業界誌 Media Border」を発刊し、テレビとネットの最新情報を配信している。著書『拡張するテレビ ― 広告と動画とコンテンツビジネスの未来―』 株式会社エム・データ顧問研究員。

境 治(コピーライター/メディアコンサルタント)

1962年福岡市生まれ。1987年東京大学卒業後、広告会社I&S(現I&SBBDO)に入社しコピーライターに。その後、フリーランスとして活動したあとロボット、ビデオプロモーションに勤務。2013年から再びフリーランスに。有料WEBマガジン「テレビとネットの横断業界誌 Media Border」を発刊し、テレビとネットの最新情報を配信している。著書『拡張するテレビ ― 広告と動画とコンテンツビジネスの未来―』 株式会社エム・データ顧問研究員。

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