「神話」の形でブランドを描く、ストーリーテリング
ここ2回ほど、本コラムでは小説や、映画など物語をテーマに取り上げてきましたが、今回はそこから派生するテーマとして、ブランドにとって物語(ストーリー)をどう扱うべきか、について書きたいと思います。
私は自分が文学部出身なこともあって、マーケティングの専門書と同じくらい物語も好きでよく読むのですが、物語がマーケティングの仕事に生きると感じる場面が多くあります。実際、周囲を見渡しても、最近では自社ブランドの定義に物語を取り入れた手法がとられるケースが増えているように思います。
マーケティングに物語を取り入れる手法のひとつが、物語の神話的構造をブランドに当てはめる、というものです。物語というのは特定の作者によってつくられるのではなく、神話や民間伝承などによって育まれるもの、つまりは文化が生み出す現象のひとつとして捉えることができます。そして文化人類学者によれば、世界にはそのような意味での非常に多くの数の物語が存在しますが、その表面的な多様性と異なり、そこからはある一定の共通要素を取り出すことができます。
たとえば古今東西の英雄の物語は、必ず最後には怪物や竜を倒して世界に平和をもたらします。そしてブランドも同様に、アップルの伝説的なマッキントッシュのCM「1984」では、ビッグブラザーの支配を大きなハンマーでぶち壊す若い女性を描くことで、ブランドが世界を変えていくストーリーを伝えています。
それは「英雄」や「女神」「冒険者」のような、象徴的な文化的役割であり、自社ブランドがより広い文化的文脈ではどのような位置づけで、ブランドがビジネスを遂行することでどのような社会的役割を達成するかを「神話」の形で描き出します。つまり、皆が理解しやすい物語に自社をあてはめることで、世界の様々なオーディエンスに共通するストーリーテリングを生み出すものです。