ブランドが主役であってはならない
最近、読んだドナルド・ミラー氏の『Building a Brand Story(2018年刊 未邦訳)』は、タイトルからして前述のようなブランドの社会的役割を物語にして、マーケティング戦略に当てはめるもののように見えますが、実はそうではありません。彼はかつてシナリオライターとしての経歴から、良い意味でハリウッド映画のビジネスがどのようにしてブロックバスターを生み出しているか、その評価基準をそのままマーケティングに当てはめています。そのような意味で彼は理論的というよりは徹底的に実践的です。
ミラー氏が面白いのは、構造的にブランドを物語の形式にすることは踏襲しているのですが、彼が例に引く「失敗」が実際の映画での観客の体験をもとにしている点です。たとえば、観客が興味を引く物語とは、主人公は単純に完璧であってはならないと言っています。主人公がいかにすごいかを話されても、観客は席を立ってしまう。
そして物語の主人公は当たり前ながら、「ブランド」ではありません。この点はジョナ・サックス氏の本でも同じように語られていながら、ミラー氏のほうに説得力があります。ブランドが主役の場合の物語は必ず失敗するというのです。しかも、彼はブランドがいつ創業したか、どうやって生まれたかを自社サイトに載せている企業は多いけれども、それは顧客が聞きたい物語ではない、と言い切っています。