物語はカスタマージャーニーを実現するもの
このような形でストーリーをマーケティングに活用するというのは、古くて新しい考え方です。なぜなら過去の素晴らしく効果的だった広告ストーリーは、同じく顧客が物語の主人公として、情緒的に変化を体験させるものが多いからです。たとえば伝統的なコカ・コーラの広告メッセージは、炭酸飲料がなぜ良いのか説明するものではなく、常に顧客の情緒的経験をもとにしています。アップルのコマーシャルは、複雑で最先端のテクノロジー製品でありながら、デザインや写真の美しさなどの感性的な面に訴えています。
それらはファンタジーや幻想ではなく、顧客が体験したいと考えていること、解決したいと思っていることを、ブランドが見事に助けて実現するという形で示すことです。だからこそ顧客はそれを求めてブランド側にアクションを求め、購入し使用することによって、それを達成するというカスタマージャーニーとして描かれます。ブランドにとってのストーリーとは、顧客のジャーニーを円滑にするためのものです。そこから得られるインサイトは、ジャーニーを解決させるマーケティング施策と結びついています。
「ジョブ理論」において、商品の機能的な特徴よりも、顧客の情緒的な面や社会的な役割、ジョブ前後の文脈、ジョブ解決を妨げる障害などに注目するのも、顧客を中心とした物語を成功に導くためのストーリーのために重要です。
障害は顧客にとって、ガーバーのナイフにとっての「トラブル」のように敵となり、ガーバーブランドは、顧客の不安を情緒的に解消するために、タフなプロフェッショナルのイメージを顧客に伝えることでそれを乗り越える手助けをします。したがってこれらは広告のアイデアというよりも、むしろブランドが物語として顧客を導くためのものです。そのような形でこそ、ブランド物語ではなく、物語ブランドが生きてくるのです。