※本記事は宣伝会議主催のイベント「アドタイ・デイズ2018 」(4 月11 日・12日)内で行われた講演をレポートしたものです。
世界共通の行動指針を作成
—グローバル化を進める中、インターナルブランディングはどのような方針で展開されていますか。
平野:日立製作所はブランド価値評価調査「ブランド・ジャパン」(日経BPコンサルティング)で、2017年は119位だったところ、2018年は9位まで上昇しました。日立ブランドの価値の根幹には、創業以来受け継いできた企業理念などを2013年に体系化した「日立グループ・アイデンティティ」(図1)があります。従業員がこれに基づいて行動することで、外部からも信頼性や期待が高まりブランド価値を生み出す、という考えから社内浸透を進めました。
岡部:我々マイクロソフトも「ミッション」を一番に掲げて企業活動をしています。2015年に決定した新たなミッションは「地球上のすべての個人とすべての組織が、より多くのことを達成できるようにする」。CEOも日本法人社長も、社員も、社内でも社外でも講演やスピーチをする際には、世界共通デザインのスライドを使ってこのミッションを伝えるようにしています。
また、世界共通の注力テーマを掲げて行動の指針にしています。ミッションは会社が目指す方向性ですが、テーマはミッションの下で大志を持って注力すべき分野のことです。社内では「アンビション」と呼ばれていて、現在は(1)プロダクティビティとビジネスプロセスを再発明 (2)インテリジェントなクラウドプラットフォームの構築 (3)革新的なパーソナルコンピューティングを実現の3つが定められています。
決算発表の際にはそれぞれのアンビションごとに数字が出てきます。つまり、通常であれば製品ごとや事業ごとで決算発表するところを、我々はアンビションごとに発表するほど重要視しているということです。
最初は戸惑いましたがこのやり方に慣れてきたこともあり、現在はアンビションごとの数値で経営の状況が分かるようになっています。
—企業の方針をグローバルで根付かせることは非常に難しく、時間のかかることだと思います。これまでにどのように取り組んできましたか。
平野:毎年、社内で「ブランド表彰」を行っています。世界を6地域にわけて、それぞれの地域で「日立グループ・アイデンティティ」に沿って仕事に取り組んできた社員を表彰するイベントです。対象となる取り組みは、大型受注でも社会貢献でもよく、各地域でグランプリに選ばれた社員は、日本で行われる「ブランドアンバサダープログラム」に参加します。
2014年から始めたこのプログラムは、3日間かけて創業地のツアーや社長との座談会などを行い、「日立グループ・アイデンティティ」の意味や日立の歴史への理解を深めてもらう内容となっています。そして、それぞれの組織に帰った後は、アンバサダーとして日本で学んだ「日立らしさ」を他のメンバーにも共有してもらっています。
岡部:我々は日本法人として、グローバルで定めたミッションを日本で実現するために、独自の「目指す企業像」を設定しています。自分たちが日本においてどのような会社になればミッションを実現できるかという考えのもと「革新的で、安心して使っていただけるインテリジェントテクノロジーを通して、日本の社会変革に貢献する」という目標を設定しました。これは、グローバルミッションの実現とともに、日本法人として日本の社会変革に貢献することも追求していく「チャレンジ」です。
最も効果的なのは直接対話
—グローバル化・デジタル化が進んでいますが、両社の今後の課題や展望を聞かせてください。
平野:我々はグループ会社も多く、事業分野も多岐にわたっています。グローバル化にあたって企業買収を積極的に行う一方、グループ会社を再編するという動きもあり、「日立」というブランドをどのように管理していくかが経営における大きな課題です。
企業買収においては、買収先企業のブランドが強い場合、「買収前のブランドを維持するのか、日立ブランドを新たに掲げるのか」という問題が発生します。このような場面でのブランド管理は、グローバル化を進める企業にとって、今後さらに直面する課題になっていくと思います。
岡部:現在、新しいテクノロジーがクラウドでどんどんアップデートされ、すぐに活用できるという流れになってきています。我々はミッションに基づき、最先端のテクノロジーを活用した働き方改革にも取り組んでいますが、人と人との連携を大切にするので、リアルなコミュニケーションに重きを置いています。
カルチャーを浸透させたり、変革を推進するためのコミュニケーションをとったりするときに、一番効果的なのは直接話すことです。そのため当社では、社長が自ら社員の執務フロアに出向いて直接対話をする場を月に一度設けています。アメリカ本社でもCEOが過去4年間続けている企画です。デジタルの会社ではありますが、結局のところ直接対話に勝るコミュニケーションはないということで、今後も続けていきたいと考えています。