レピュテーション向上を通じた企業ブランディングとは?

グローバル展開する企業では、激化する海外市場でシェアを獲得するため顧客のレピュテーションを高めるコミュニケーションが重要になっている。国内外でのブランディングに力を入れている2社が、取り組みを解説する。

※本記事は宣伝会議主催のイベント「アドタイ・デイズ2018」(4月11日・12日)内で行われた講演をレポートしたものです。

ブランドメッセージを統一

──両社ともに近年、企業としてのブランディングを強化しています。それぞれのお取り組みを教えてください。

クボタ
理事 コーポレート・コミュニケーション部長
細谷 祥久(ほそたに・よしひさ)氏

1988年関西学院大学社会学部卒、同年久保田鉄工(現クボタ)入社。広報室、東京本社総務部、人事労政部を経て、2003年人事部人事グループ長、2004年秘書広報部広報室長、2010年から現職。メディアリレーション、インターナルコミュニケーション、デジタルコミュニケーション(WEB・SNS)、コーポレートブランディングなどを統括。

細谷:クボタは長期ビジョンとして「グローバル・メジャー・ブランドを目指す」と掲げています。これを実現するためには、一般層にもクボタの存在理由や価値を知っていただくことが大切です。しかし、近年は日本経済新聞社、日経広告研究所による「日経企業イメージ調査」でもクボタを「まったく知らない人」の割合が高まるなど、認知に課題が出てきていました。そのためスローガン「壁がある。だから、行く。クボタ」をつくり、2017年から「ブランド強化プロジェクト」をスタートしたのです。

プロジェクトでは、「食料・水・環境などの社会が抱える課題に真摯に向き合う」という企業姿勢を、テレビCMや新聞広告の中でメッセージとして発信しています。CMでは25年ぶりにイメージキャラクターを起用し、女優の長澤まさみさんが出演しています。一方、新聞広告ではメッセージをストレートに伝えるようにしました。

高橋:味の素グループでも2017年からの「3カ年中期経営計画」のコアとなる価値創造ビジョン「Ajinomoto Group Shared Value(ASV)」(図1)を打ち出しています。4つの「価値創造ストーリー」を起点に、すべてのコミュニケーションを体系化しています。

 

食を通して社会の課題を解決することで、社会の中での企業価値を創出し、やがて「経済価値」として当社に戻ってくるというサイクルを回していこうという考えです。ただ、生み出す価値もステークホルダーにとって価値がなければ意味がありません。世界各国の食の習慣や文化に合わせた課題を解決していくことで、持続可能な経済価値を生み出していこうと考えています。

──グローバルコミュニケーションにおいては、どのような戦略をお持ちでしょうか。

高橋:味の素は海外へ進出してから100年以上が経ちますが、各国の環境や食習慣、食文化をリスペクトしたローカライゼーションを進めてきました。しかし、それでは各国それぞれの商品ブランドは成り立っても、「味の素」という世界共通のブランドは確立されませんでした。そこでグローバルの方向性を統一するために「ASVコミュニケーション」というミッションをつくりました。日本発の知見やノウハウを共有し、世界でスタッフレベルの底上げを図っています。

今後はこのミッションのもと、ブランドの価値換算額を2016年の7億1100万ドルから2020年までに2倍の15億ドルにしようというプランを掲げています。

クボタは2018年の事業・CSR報告書でトップメッセージに「SDGsを羅針盤としてグローバル・メジャー・ブランド クボタを実現する」と掲げた。

細谷:現在は事業活動のグローバル化のスピードにコミュニケーション部門が追いつこうとしている段階で、グローバルでのブランディングと広報活動を統一するため、4点のポイントを考えています。

1つは「グローバルアイデンティティ」という、世界共通の企業理念です。情報発信の際もこの企業理念を発信していこうと、現在22カ国語で共有しています。

2つ目は一貫したビジュアルアイデンティティ管理です。2017年に完成した「ブランドデザインガイドライン」によって、発信する情報や広告メッセージのトーン&マナーをグローバルで統一しようとしています。

3つ目はグローバルウェブプロジェクト。全世界で約125あるサイトの構造改革を進め、統一性や一貫性のあるメッセージの発信を進めています。最後に、グローバルの「SNSガバナンス」です。発展途上の段階ではありますが、FacebookやYouTubeなどの情報発信の方針やアカウント管理などを整理して進めています。

ターゲットに合わせた発信を

──今後の課題を教えてください。

味の素
理事 広報部長
高橋 健三郎(たかはし・けんざぶろう)氏

慶應義塾大学法学部卒。1981年に味の素入社。1994年9月から本社食品事業本部冷凍食品部で海外法人設立PJ担当として勤務し、大阪支店業務用冷凍食品課長、味の素冷凍食品(業務用西日本部長、東日本部長)への出向を経て、2006年に味の素冷凍食品タイランド社長に就任。2010年からは味の素 広告部長、味の素 理事 広告部長を歴任し、2014年7月から現職。

高橋:「ASV」がスタートした時に意識したのは、どのように社会とコミュニケーションをとっていくかでした。当時は味の素グループには様々なイメージがあり、生活者にメッセージがどれほど伝わっているのか危惧されていました。現在は情報量が10年前の600倍とも言われますが、人間の処理能力は変わっていません。つまり、流通しているほとんどの情報は見られることなく捨てられているのです。

ユーザーは環境次第でブランドスイッチしてしまいますが、一度ブランドを好きになると消費行動やインサイトは変化するものです。そのため、レピュテーションのポイントとしても、ユーザーを「LIKE」までどう到達させるかが重要であり、それはコミュニケーションの究極の目的にもなっています。情報が氾濫している現代だからこそ、皆さんの元に伝えたいメッセージを確実に届けるために、ターゲットに合わせたコミュニケーションができるように体系を整理していきたいですね。

細谷:当社は創業以来、食料・水・環境に関する課題を解決するため、社会で真に求められる製品を提供してきました。農業機械や建設機械、水道用鉄管などは一般の方には直接関係のない製品かもしれませんが、それらを提供することで、食料の増産や、安心安全な水のお届け、都市環境の整備・保全につながっています。今後もこれらの課題解決に貢献することがクボタの存在価値であるというメッセージを発信していこうと思っています。

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