会場で勢いを見せるスポンサー企業
今年も昨年に引き続き、コンサルティング会社のスポンサードが目立ちました。アクセンチュア インタラクティブやマッキンゼー・アンド・カンパニーは、各日程のオープ二ングセッションや同様に近い扱いでセッション枠を持っていました。
また、カンヌオフィシャルでクルーザーを停泊し、そこでもセッションやパーティを実施しており、勢いがすごかったです。今年のみの実施とは聞いているものの、アリババは会場の階段アドをジャックし、大きなブースも設けていました。(かなり上のポジションの方も現地入りしていたそう…。)
さらに今年は、昨年までカンヌオフィシャルで実施されていたビーチサイドでのハッピーアワーを、なんとCNNが実施していました。コンデナスト・パブリックリレーションズもインターコンチネンタル カールトンで大きなブース、カクテルパーティを開催するなど、従来型メディアも頑張っている印象がありました。
参加者が感じた今年のカンヌとは(初審査員・資生堂 小助川さん)
テリー・サベージがチェアマンを退く、カテゴリーの再構築など様々なトピックがありますが、まずは初めて参加した方に「今年のカンヌをどう感じたか」を伺いました。
Film Craft部門で初めて審査員を務めた、資生堂のクリエイティブディレクター小助川雅人さんは次のように話しています。
「初めて審査するにあたっていろんな思いがありましたが、結果的には引き受けてよかったです。FilmとFilm Craftで金賞を受賞したときは、カンヌで金賞を獲ることがこんなに大変なことだと理解できていませんでした」。審査員をしてみて初めて、その重みを感じ、改めて喜びを感じたと話す。
一昨年のカンヌで、Film、Film Craft部門金賞を受賞した「High school girl? メーク女子高生のヒミツ」
「Film部門は特にレベルが高い。日本で素晴らしい!と感じていた作品もよりハイレベルな作品の中では埋没してしまい、ショートリストにも入らなかったり…。Film Craft部門については、日本を含むアジアはもう少し頑張りたいところ。
最終日のグランプリを決める審査は午前3時まで掛かりましたが、貴重な体験でした。Film部門とは結果も違うのでゆっくりその点も比べてみたいです」
また、別のアワードの審査員もやってみたいですか?と聞くと「もちろん!また、やりたい。とても素晴らしい体験だし、もう(度胸も座り)大丈夫な気がします」と笑顔で答えてくれました。
ベテラン勢の感想は?(佐藤達郎さん、電通 古川さん)
さて、今年9つのトラックに分けられた部門について、カンヌベテランの方はどんな風に感じたのでしょう。
ADK→博報堂DY→多摩美術大学教授の佐藤達郎さんにお話を聞いてみました(カンヌ歴15回)。
「私が初めてカンヌに来た2004年、部門の数は7つでした。それが昨年は24部門へ。カンヌの部門がここまで増えたのはなぜかとの問いをオーガナイザーにしたとき、彼らは『広告ビジネスは、常に進化発展し、複雑化しているため』ということだったが、比較的古い部門も整理されず、増え続けてきました。
多数あるカテゴリーをシンプルにし、まとめようとするのはいいことだと思います。
9つのトラックについては様々な意見があると思いますが、他の広告賞とは違う分け方になっていて、カンヌがシンプル化にトライすることは評価すべき点です。
ただ、開催期間が短くなったことについては、つめこみ感は否めなかった。聞きたいセッションの実施が重なってしまうなどもザラでした。毎日授賞式もあり、作品を振り返るのも大変」と。期間中の寄稿、帰国後の報告会などをしている佐藤さんならではの意見でした。
次に、電通のエグゼクティブクリエイティブディレクター 古川裕也さんに話を聞いた。
「現地でことのほか忙しく、表彰式は最終日しか出られなかったので、その範囲でわかったことをお答えします。
今年のカンヌが問われていたのは、グローバル・アワードの存在意義そのものであり、それに対する一定の答えを提出できたか否かだったと思われます。
これに対しては、ほぼ100%の参加者が否定的な意見ではないかと考えています。『新しいカテゴライズの意味がわからない』、『詰め込みすぎであわただしい』などなど、みんな、ますますわからなくなった、と答えるに違いない。
ここ数年、ソーシャルとテクノロジーにフォーカスしすぎた結果、『ヒューマン・インサイト・ベース』の表現という最も重要なスキルが影を潜めてしまった、あるいはその能力が失われてしまった状態が、いよいよ深刻な段階になったことが今年の特徴のひとつでした。多くの人が、スター・ワークスがないと、現地で言っていたのはそこに原因があるではないでしょうか。どんなに“進んだ”ワークでも、ヒューマン・インサイトなしで圧倒的なものは絶対生まれない。それが、クリエイティブの仕事の原則です。
今年の数少ない収穫といえば、『Palau Pledge』が、チタニウムと新カテゴリーSustainable Development Goals部門で、それぞれグランプリだったこと。珍しいくらいグランプリのダブりが少なかったことを思えば、今年のベストワンのひとつだと言えます。社会的意味のあることを、政府と国民と外国人観光客、関係者全員参加で成し遂げるキャンペーンで、何より、ちゃんとリアリティがありました。本当に意義のあることが成された仕事です。
今回、カンヌからSustainableという概念が明示されたことが、グッドニュースです。
ソーシャル・イシューをこのアイデア一発で解決しました、というビデオが表彰式でも大量に並ぶ。そんなに簡単に解決できる課題なんて世界にほとんど存在しないのに。アドバタイジング・エージェンシーにアワード目的ではない、継続的中期的な本当のソリューションが提供できるのかと、このカテゴリー・コンセプトは問いかけています。
・インダストリー(広告業界)の外に出しても恥ずかしくない、本当の意味のソリューションであること
・最も高度にクリエイティビティが要求されるヒューマン・インサイト・ベースな表現になっていること(広告に限らず)
・テクノロジーをはじめ、いままでにないものを駆使して初めて可能になる仕事であること。
この3つの要素を含んだものが、エージェンシーとインダストリーが、10年後も
存続していくために最低限必要な能力だと思います」。
新チェアマン フィリップ・トーマスが語ったこと
それでは実際のカンヌ側の方は変化についてどう思っているのか—。
今年からCEOとチェアマンを兼任するフィリップ・トーマスさんは「手を加えたイノベーション、プロダクトデザイン(=9トラックではイノベーションで括られる)とクリエイティブデータのグランプリがすべて別の作品だったことをうれしく思っている」というコメントを記者会見で語っていた。
一つの作品が多数の部門でグランプリを獲りまくるということも、最大6部門にしかエントリーできない制限を設けたため、避けられる結果になったということだろう。
毎年、最終日に発表になるTitanium。一歩先のクリエイティブアイデアやゲームチェンジ、チェンジザワールドというようなクライテリアのため、その年の「代表作」がまとまる。
今年新設されたBrand Experience &Activation部門でもグランプリを受賞した「Today at Apple」がTitaniumも受賞。
全世界のApple Storeで毎日開催されているワークショップ形式の体験イベント「Today at Apple」が、ブランドをこの体験を通して実感できるものとして評価されただけでなく、アメリカ的に言うと、一企業が国の「教育」分野にも寄与し、ブランドコミュニケーションを行っていることが、Titaniumとして評価されたのだとか。
この「Today at Apple」は、これまでならアワードにエントリーもされないような施策で、そういう施策がグランプリ、Titaniumを獲ったことに、今年のカンヌに大きな変化があった証拠なのではないでしょうか。
末永朗子
アサツーディ・ケイ クリエイティブキュレーター
国内外のアワードに精通、グローバルPR、エディターも兼務。
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