【前回のコラム】「表現方法と仕上げのテクニックこそ、アートディレクターの腕の見せ所」はこちら
Q.水口さんから見て、いまの若手デザイナーに求められる力は何だと思いますか?
回答者:水口克夫(Hotchkiss代表/アートディレクター)
まず、ホッチキスの若いデザイナー2人にこの質問を投げかけてみました。1人は「本質を見抜く力」と答え、もう1人は「ひとつのことに傾倒すること」と答えました。
「ひとつのことに傾倒する=型にはまるまで突き詰める」ことで、突き詰めてはじめて型破りなことができるという意味です。まあ、普段僕がデザイナーたちに口酸っぱく言ってることがそのまま出た感じかもしれないですね。
話は変わりますが、昨年と今年、グッドデザイン賞の審査委員をやっています。
4,000以上の応募件数が集まりますが、ジャンルも様々で、審査をしていると「デザイン」という概念の広がりが本当に実感できます。世の中にある課題は多様で、複雑で、グラフィックデザイナーだからといって、グラフィックだけを作っていればいいわけではなく、これからはジャンルを軽々と横断できるような能力が必要なんだと思います。
アウトプットの部分では、グラフィックデザイナーにはグラフィックデザイナーの、プロダクトデザイナーにはプロダクトデザイナーとしての必要なスキルや美意識がありますが、
(ここから、本題に入ります!)
すべての「デザイン」を生業にする人にとって必要なことは「文脈を読み解き、文脈を再構築する力」なんじゃないかと考えます。
例えば、ある地方企業の商品をリデザインする仕事だとします。その企業のなりたちや歴史、商品が生まれた時代背景、どんな人たちに愛されてきたのか、その土地の魅力的な資源は何か、その土地ならではの購買傾向はあるのかなど、データ等を利用して商品のまわりに存在するストーリーを読み解くことからスタートします。
その上で、その商品がいままで以上に顧客に愛されるにはどうしたらいいのか。新たな文脈を築き上げていくことで、アウトプットの輪郭がぼんやりと見えてきます。文脈を読み解くためには、情報収集やものごとを整理する能力が必要です。観察し、客観的にものを見る力も、常に疑問を投げかける態度も要求されます(うちの若いデザイナーは「なんでクン、そもそもクンと友だちになる」と表現していましたっけ)。
自分の中に文脈が再構築できていれば、プレゼンでの説得力は全然違うはずです。いろんなことが整理できているはずだから、アイデアも出やすい状態になっています。しっかりとした文脈が下支えとしてあれば、その上に築き上げられるデザインは当然強度のあるものになる。今後AIがクリエイティブの領域に進出してきたとしても、「文脈を読み解き、文脈を再構築する力」は人間だからできることだと思うんです。
ただし、若いデザイナーがいきなり鼻息荒く「文脈だ〜!」って向かっていっても難しいと思うので、まずはプロジェクトがスタートした段階で要件を整理するクセをつけておくのがいいんじゃないかと。「何のためにデザインするのか」「誰に向かってデザインするのか」など、自分の言葉で書き出す。その上で「この仕事で達成したい自己目標」を決めて毎回の仕事に臨んでいくのです。
「ひとつのことに傾倒すること」も若いデザイナーに必要なことなんですが、今回は字数が一杯になってしまったので、また改めて。僕の著書『アートディレクションの型』にもちょっと触れているので、よかったら読んでみてください。
水口克夫
Hotchkiss代表/アートディレクター
1964年金沢市生まれ。金沢美術工芸大学を卒業後、電通入社。2012年、Hotchkissを設立。広告とデザインの分野で活躍。2015年には金沢支社を開設、本屋兼ギャラリーの「Books under Hotchkiss」も運営。
主な仕事は、JR東日本「北陸新幹線開業広告」、NHK大河ドラマ「真田丸」ポスター、サントリー響「若冲」篇、芝寿し「小笹」ブランディングなど。ADC賞、カンヌ国際広告祭、アジア太平洋広告祭ベストアートディレクションなど受賞歴多数。
著書には、『アートディレクションの型〜デザインを伝わるものにする30のルール~』(誠文堂新光社)、『安西水丸さん、デザインを教えてください!~安西水丸装幀作品研究会~』(Hotchkiss)、『ぞうぼうしパオ』(小西利行と共著/ポプラ社)がある。
アートディレクター養成講座(ARTS)
今、クライアントや世の中から求められる仕事を実現しているトップクラスのアートディレクター陣が、「課題解決のためのソリューションを考え抜く力」「精度の高い判断をする力」「企画意図を自分の言葉で伝える力」というデザイナーが今、必要としている3つの力を鍛え上げる講座です。
<次回の開講のご案内>
講義日程:2018年8月7日(火)から全30回
講義会場:東京・南青山 受講定員:90名
詳細URL:https://www.sendenkaigi.com/class/detail/art_director.php