元のタイトルは『万引き家族』ではなく『声に出して呼んで』だった
澤本:そもそも、この番組にリリーさんが来ていただいたのは、『万引き家族』を世の中の人に見てもらうために、一生懸命僕らがアピールをしようと思って。でも、パルムドールを受賞して、する必要がなくなっちゃいましたね。
中村:受賞前にお声掛けをして、何となく試写を見たぐらいに、まさかという報が届いて、そこからバタバタで。まだ帰国されて日も経ってないんですよね。問い合わせがすごいですか?
リリー:今までにないぐらいLINEが来ました(笑)。その中でも一番笑えたのが、真面目な人なんですけど、「ポンパドール賞おめでとうございます」って。いや、俺パン屋さんじゃないと。
一同:(笑)
中村:早速、映画について聞いていきたいんですが、まずは台本を最初に読まれたときの印象を教えてください。
リリー:プロットの時点でホロッとしましたね。
澤本:最初にプロットが来たんですね。
リリー:そうですね。プロットから台本になるまでに相当時間がかかった気がします。
権八:海行くシーンのときはまだ台本がなかったと聞きましたが?
リリー:そうなんですよ。顔合わせしてすぐにみんなで海水浴のシーンを撮りに行って。その時点ではプロットあるけど台本なかったですね。夏のシーンだけを先に撮りたいと、海水浴のシーンがクランクインで。そのシーンだけ台本はありました。
澤本:あそこからだったんですね。
権八:樹木希林さんのお芝居がすさまじかったですよね。
リリー:そうなんですよ。あそこに関しては希林さんが是枝監督に「あんた綺麗な顔してるね」というセリフを足したいと言って。それが初日の撮影で、是枝さんが後日言ってましたけど、「希林さんのこの人の顔を褒めるセリフを入れたいというところから、自分の中で映画が動いた」と。最終的に、最初に撮ったシーンが映画の中で象徴的なシーンになっていて。
自分の足に砂をかけながら、「シミだらけ」と。全体を通して見ると、おばあちゃんの少女性がそこにだけあるんですよね。“女性”性というか。同性の人のルックスを褒めたり、足のシミを嫌がったり。最後にほとんど聞こえない小さい声で「ありがとうございました」と。
じつは今回の映画のもともとのタイトルは『万引き家族』じゃなくて、『声に出して呼んで』だったんですよ。
澤本:タイトル、違ったんですか?
リリー:台本も、スタッフTシャツもみんなそう書いてあるんです。だから、みんなが無意識のうちに、希林さんも、サクラさんも、祥太(城桧吏)も、茉優ちゃんも、ホロッとするところ、グッとくる言葉も、声に出して読んでないんですよね。「ありがとうございます」も、「さよなら」も、「お父さん」も。みんな、口を動かしてるだけなんですよ。
中村:あー、なるほど!
リリー:カンヌで見たときは、そこに口パクの字幕がついているんですよ。だから、字幕がついてあるほうが丁寧に説明している映画になっていて。
権八:希林さんが砂浜で言う言葉も聞こえないですもんね。
リリー:そう。あれは「ありがとうございました」って言ってるらしいです。字幕で見ました。
権八:そうなんだ!
リリー:俺も試写では気づいてなかったから、字幕で見たときにゾッとしたんですよ。