パルムドールを受賞した『万引き家族』。撮影中のタイトルは『声に出して呼んで』だった?(ゲスト:リリー・フランキー)【前編】

撮影前に、是枝さんに「リリーさん、台本いります?」と聞かれた

中村:オープニングのあたりではバックグラウンドもわからないから、リリーさんの醸し出す雰囲気が良い人か悪い人かわからないんですよね。台本を読まれたとき、普段の自分と違うような役作りに持っていこうと思ったんですか?

リリー:是枝監督が僕らをキャストする理由で、良い人か悪い人かよくわからない人達というのがあると。映画も最後まで明快な善悪がないので。是枝さんの映画に関しては役作りしていくとうよりも、是枝さんの中でハッキリとしたものがありますからね。でも流動的なんですよ。どんどん撮影しているうちに、治はこういう人なのかとなったら、治のセリフをどんどん変えていって。是枝さんは1つゴールを見つけて、そこに向かっていくという感じじゃなくて、そのゴールの場所を流動的に変えていくという。

澤本:じゃあ撮影しているときにセリフが変わったり。

リリー:ほぼ毎日変わってるんじゃないかな。順撮りで撮ってるから、その日にやった撮影を是枝さんが見て、だいたい朝に次のシーンのセリフの紙を渡されて、「こう変更します」と。

澤本:あれ全部順撮りなんですね。じゃあ、撮っているうちに性格が決まってくるという。

リリー:そう。編集で切ってるシーンはすごく多いですよ。最初に見たときは「いっぱいなくなってる」という印象でしたね。

一同:(笑)

澤本:順撮りで撮ってるからか、あの男の子が前半と後半で、相当成長したように見えました。

リリー:明快に1シーンから撮っているわけじゃないですけど、時代性はほぼ順番通りです。大雨のシーン、雪のシーンも本当に天然のものなんですよ。是枝さんが、雪が降ったから雪のシーンを入れ込んで撮影しようと。

澤本:じゃあスパンは結構長く撮っていたんですか?

リリー:2カ月弱だと思います。その間で、たまたま僕と祥太が2人になるシーンのときに雪が降ったり。子どもたちがセミを捕まえて家に帰ってくるシーンも、土砂降りですけど、本当の雨なんですよ。

澤本:そうなんだ。あのビショビショのが。

リリー:お家でやらしいことしてるときに子どもたちが帰ってきて。そこで本当に雨が降ってるから、是枝さんも雨と繋げて、お父さんたちも汗ビショビショだから、ちょうどいいなと。

権八:是枝さんはもともとテレビのドキュメンタリー出身だったりするじゃないですか。聞いたことがあるんですけど、子どもには台本渡してないと。そうなんですか?

リリー:そうですね。子どもだけじゃなくて、子どものお母さんも、子どもの事務所ももらってないと思います。親や事務所の人が持ってると、子どもにお芝居つけちゃうじゃないですか。

権八:小さい女の子の表情の変化などが素晴らしいですよね。すごいですよ。

リリー:すごいですよね。子どもたちは撮影直前に、是枝さんが「リリーさんがこう言うからこう言ってね」と口伝でセリフをたててるんですよ。でも、今回は是枝さんが撮影前に俺に「リリーさん、台本いります?」って聞いてきたから、完全に俺は子役枠として・・・。

一同:(笑)

リリー:「いや、ないならないでいいですよ」って(笑)。でも、『海街diary』のときの広瀬すずは台本もらってないんですよ。15歳ですけど。

中村:えー!

リリー:それも是枝さん、本人に「台本いる?」って聞いたんですって。そしたら、すずが「いらない」って言ったと。すごくないですか? 本当に小さければいいけど、15歳じゃないですか。台本もたずに大竹しのぶと樹木希林の前で芝居するって、普通の女優だったらプレッシャーで舌噛みそうじゃないですか。すごいですよね。

次ページ 「出演する女優は全員“すっぴん”だった」へ続く

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