マーケターに、より人間らしい貢献を期待される時代が到来した(音部大輔)

課題の見極めは「人間」のマーケターがすべき重要な仕事

提示された、それぞれの成功例では各種クラウドやスタジオが巧みに連携している。同時に、それらの統合をどのように設計するか、についてはこれから知見を蓄積していく必要があるようだ。企業によって抱える課題も多様であるから、他社でうまくいったパッケージをそのまま適用してうまくいくとは限らない。同一業種であっても、市場の占有度やブランドの確立度合いなどによって課題は様々であるだろう。

長年付き合ってきた自分の体の健康課題を自分で認識するのがとても難しいように、自ら課題を認識するのは意外と難しい。体については人間ドックなどで定期的に検査・点検をする。身体のくたびれ具合(つまり年齢)によって各種指標の基準値が示されているので、ある意味、健康課題は他者ベンチマークで把握しやすい。症状が出てくる前に、ちゃんと検査していれば予防できることも増えてきた。

対して、企業は全ての企業を同種族と捉えることに問題がある。生物に多様な類が存在し、同じ哺乳類にもいろいろな種があるように、企業の種類は極めて広範囲に分散する。同業種だから同種、と捉えるべきではないかもしれないし、それぞれの指標に単一の基準値を儲けるのは少々乱暴であると言わざるを得ない。

課題の解決方法やプランの実行手段が急速に自動化され、整ってきている。どのように課題を発見し、解決のグランドデザインを描くのか、というのは大きなテーマとなる。データ関連のテクノロジーが進化したことで、「どの指標に問題があるか」というのは比較的理解しやすくなった。

血圧が高い、血糖値が高い、脈拍が不安定だ、といったように、使用者の脱落が早い、一人当たりの消費金額が少ない、ユーザーの口コミが少ない、などはかなりリアルタイムで指摘できるようになってきた。異常値に対する対処療法はリアルタイムで提供可能になりつつある。

ただし、「なぜそうなのか」そして「どうすれば数値が恒常的に改善するのか」という根本治療についての仮説立案は、マーケターに課せられた重要な任務であるだろう。技術革新で治療方法や薬効が進歩したとしても、症状の背後にある病原が特定できなければ、対処療法以外の治療計画も立てにくい。医学との最大の違いは、人間の場合は患者が「人類」であることが明確であるのに対して、企業の場合はその種が特定できないだけでなく、途中で変化していくことだ。

5年前の処方を今年も使えるとは限らないし、正面の競合企業でうまくいった処方が自社にも使えるとは限らない。進化したソリューションを効果的に使うためには、リアルタイムの課題を自らの戦略に照らすことで把握し、改善・強化策のグランドデザイン、マーケティング活動の設計図を描ける必要がある。

マーケターに求められるのは、より“人間らしい”貢献

マーケティングのデジタル化は「消費者はテレビを見ないからスマホで広告しよう」などと現象に対して表層的に反応したり、「CPAやCPCなどのCPX的な指標の追求に集中」したりといった過程を経て、施策に対する消費者の各種反応の計測と計画の軌道修正の自動化がこれからの主要テーマになるだろうと思われる。人間が手動で複数の変数の調整をしたりする必要はなくなるが、目的設定はどのAIでもまだできない。

人間がなすべき仕事を、マーケターはよりよくできるようになる必要がある。また、組織や上司は、そういったマーケターの育成をしていかなくてはならない。多くのマーケターがより人間らしい貢献を期待される時代が到来しつつあるように考える。

音部大輔
クー・マーケティング・カンパニー 代表取締役

日本と米国のP&Gで17年間ブランドマネジメントやイノベーション方法の確立などに従事した後、ダノンジャパン、ユニリーバ・ジャパン、日産自動車、資生堂など複数のブランドを擁する企業でブランドマネジメント組織を指揮・構築。組織強化を通したブランドの成長を実現。2018年1月より現職。博士(経営学 神戸大学)。著書に「なぜ「戦略」で差がつくのか。―戦略思考でマーケティングは強くなる―」がある。

 

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