ドラマの仕掛け人の2人に、企画の裏側とテレビCMのこれからについて聞いた。フジテレビ営業局の明松功氏は、『めちゃ2イケてるッ!』の元チーフプロデューサー。電通クリエーティブ・ディレクターの中尾孝年氏は、『その企画、もっと面白くできますよ。』の著者であり、2人は大学時代の運動部の先輩後輩の間柄だ。
広告が番組を面白くする要素として機能する
—今回の企画は、どのように始まったのでしょうか。
明松:僕はバラエティの制作から営業に異動し、「営業発の番組を作ろう」と、企画書をたくさん書きました。自分では面白いと思っていたんですが、1年経っても実現したものはゼロ。なぜ企画が得意先に響かないのか、中尾に教えてもらおうと相談しました。その反応で、これは箸にも棒にもかかってないなんだな、と感じてちょっとヘコんだ記憶があります(笑)
中尾:いや、番組としては面白かったんです。ただ「この番組を一緒に作りませんか」と広告を提案するときの視点がなくて。広告会社にいる僕からすると、スポンサーのことを気にせずに、物作りのピュアな思いで企画が書かれているのが新鮮で、ちょっとうらやましかった。
明松:その時に、中尾から「番組と広告が融合するようなことができないか」という話が出てきました。
中尾:スポンサーの都合でどんどんドラマのストーリーが変わっていくという企画です。それを聞いた明松さんも「俺も同じようなことを考えていた」となったんです。
明松:僕が考えていたのは、スポンサーのことを気にしすぎて、話が面白く無くなっていくもの。面白がるポイントは「忖度」で、良かれと思ってスポンサーの意向を取り入れると物語がつまらなくなっていく。最後に「これからは作りたいものを作っていきます」というテロップを出してオチをつける、毒気のあるものを想定していました。でも、それだとスポンサーはハッピーにならない。そこを処理しきれず構想で止まっていたところにこの話が出て、一緒に何かできそうだと思いました。
「出演する人がおいしく見える」「面白い」と評価されることばかりを考えていたのですが、ストーリーが秀逸で、「よくできている脚本だな」「上手いな」と思わせるパターンもあるのだと気づいた。これがドラマの中に広告を練りこんでいくアイデアにもつながっているんですけれど、僕個人で言えば、その気づきがターニングポイントになりました。
中尾:広告融合型のドラマが実現できたのは、テレビ業界全体に、新しい企画へ挑戦して変わっていかなければ、という使命感があったことも追い風になったと思います。企画を考えるにあたって、過去に同じような取り組みがなかったか研究したのですが、やはりこれまでも、番組と広告の融合に挑戦している人たちはいて実験的な取り組みはされていました。
でも完全に融合まではたどり着いておらず、継続性はありませんでした。それは、良い意味でも悪い意味でも、広告に対する危機感がなく、時期が早すぎたのだと思います。