CMがミステリーの謎を解く鍵に 広告とコンテンツが融合した「アドフュージョン」ドラマの仕掛け人対談

ステマと違うのは、CMと明示したうえで楽しんでもらうこと

中尾:CMをドラマに編み込むうえで、一番気を使わなければならないのは「ステマ(ステルスマーケティング)」です。そもそもステマは、いかに広告と気づかれないかを考えて広告効果を上げようとするものです。一方で、今回の企画は、ドラマの中に鮮やかに広告を編み込む手腕を面白がってもらおうというもの。つまり広告だとわかってもらわないと意味がない。そうしないと、さきほど明松さんが言われたように「上手くできた脚本だな」と思ってもらえません。

はっきり広告だとわかった上で、いかに鮮やかに本編に編み込むかにこだわっているので、ステマとは真逆です。スポンサーに提案するときも、もちろんこのお話をするのですが、考え方は共有できても、実例がない状態で説明するのは苦労しました。

明松:ストーリーテラーの滝藤さんが、CMが突然入ってくるこのドラマの楽しみ方をガイドし、さらにテロップで、あといくつCMが入るのかを表示するようにしました。

中尾:テロップが入ることによって「結構話が進んできたけど、まだ2商品も残っているぞ」という見方もできるようにしています。テロップは、広告と識別できるようにする「事情」のためだけではなく、面白さをプラスする役割も果たしているということです。本編を面白くするために広告を融合する、というアドフュージョンの目的に沿った、新しいCMの形ができたのかなと思っています。

CMをドラマ本編に編み込む

—広告する商品は、ストーリーの鍵になる部分で登場しました。これも企画当初から決まっていたのでしょうか。

中尾:本筋と関係ないところで広告が入ると、プロダクトプレイスメントのようになって気づかれないかもしれない。一方で、ストーリーの重要な部分に関わる形で商品機能とかサービスの紹介が出てくることによって、通常のCMで機能やサービスを説明するよりも、好感度や関心の高い状態で聞いてもらえるのではないかと考えていました。例えば「話しかけるだけでLINEのスマートスピーカーから電話がかけられるんだ」とか、ストーリーを見ながら商品のことを知れば記憶に残りやすくなります。しかもミステリーの謎を解くヒントも隠れているとなれば、知りたい情報として見てもらえると考えました。

到達率で見れば、従来のスポットCMは圧倒的な威力がありますから、これからも使われていくと思いますが、今回の手法は、新たなテレビCMの使い方になったらいいなと考えています。コモディティ化が進んだ時代にあって、どれだけ好感度を上げるか、ブランドに愛着を持ってもらうかを考えたときに、アドフュージョンは、手間はかかりますがソリューションになり得ます。ブランドに対する好感度に影響を与えたかについては、ドラマの視聴者調査のデータを分析していくことで、より明確になると思っています。

明松:アドフュージョンドラマは、第二弾、第三弾と続けていきたいですね。また、それとは別に、広告の価値の付加の仕方は、他にどんな形があるのかを引き続き考えていきたいと思っています。

中尾:テレビ番組とCMは、同じ映像業界に含まれるところですが、商習慣も違うし、ものづくりのアプローチも違う。僕は20年この世界にいますが、明松さんと一緒に仕事をさせてもらうことが、とても刺激的で勉強になります。多分、テレビ番組を作っている方々からすると、僕ら広告会社の発想は、違うものと感じるでしょうし、お互い面白いですよね。

明松:ドラマの編集時に話した内容も新鮮でした。

中尾:明松さんは最初、広告をフュージョンさせるときに、放映したものよりも、もっとナチュラルにCMを編み込もうと考えていましたね。

明松:イメージとしては、普通にドラマが進んでいく途中に「ただいまCM中」というテロップだけが入る。その方が異質感もあって面白いと思っていました。

中尾:僕は広告的な視点から、それでは「鮮やかすぎて斬られていることに気づかない可能性があるのではないか」と思いました。今回は第一弾で、視聴者もスポンサーも初めて見る仕組みで、ルールもわからないので、もうちょっとわかる感じにしたいと話しました。それを皆さんがものすごく理解してくださって。そうすると皆さんプロなので「ちゃんと広告にしないと」という発想が強く出過ぎてしまった。今度は逆に、僕から「もうちょっと滑らかにしましょう」という話になった(笑)

明松:それで、CMが入る部分に流れる共通の効果音の鳴り出しのところを、テロップよりも少し先行させました。テロップと同時に鳴ると、本編とCMに明確な線引きができるので。

中尾:広告の演出としては線引きがはっきりしている方がいいのですが、「何かが起こるぞ」と思わせる音楽が流れはじめてから広告が入ることで、より自然になりました。

明松:要は、〝ストーリー〟としてはCMがスネークインして自然な「寄り道」になっているのに、〝印象〟としてはテロップと音が同時にはじまって「カチャっ」と切り替わっちゃうとスネークインになっていない、ってことです。

中尾:新しい試みなので、本来の肩書きに縛られずにみんなが知恵を出しあって、協力してより良いものを発信しようとしていました。アドフュージョンドラマをはじめ、いろんな広告価値の付け方にチャレンジして、テレビCMをもっともっと面白いものにしていきたいです。

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