アイデアはデータで進化する-クリエイティブデータライオンズ審査を終えて

2018年のカンヌ、クリエイティブデータ部門の全審査プロセス

はじめまして。アクセンチュア インタラクティブの望月と申します。
私は今回、2018年のカンヌライオンズ クリエイティブデータ部門の審査員を担当しました。カンヌが閉幕してから早3週間、全体の傾向や主要な受賞作品も一通り紹介されていると思いますので、この連載ではクリエイティブデータ部門に特化し、審査のポイントや受賞作の考察、今後の傾向と対策などについても踏み込んでみたいと思います。

本題に入る前に簡単に自己紹介をさせていただきます。私は新卒でアクセンチュアに入社して10年間、業務・ITコンサルティング、インターネットやWebのシステム開発に従事したのち電通に転職。インタラクティブ、インキュベーション、プロモーション関連のセクションを担当し、昨年アクセンチュア インタラクティブに戻ってまいりました。コンサル10年、広告10年の経験を活かし、広告・マーケティング業界に貢献していきたいと考えています。

クリエイティブデータライオンズとは、データやテクノロジーを活用していかに強力で独創的なクリエイティブやアイデアをつくることができるかを審査する部門です。最近の有名なグランプリ作品としては、2016年の「The Next Rembrandt」を覚えている方も多いのではないでしょうか。

アドタイでもすでに記事で紹介されている通り、今年のグランプリには、アクセンチュア インタラクティブ傘下のクリエイティブエージェンシーRothcoの「JFKUNSILENCED」が選出されました。これは私にとって、とても光栄なことであり、そして同時に残念なことでもありました。その理由はこの連載の中で明らかにしていきますので最後までお付き合いいただけますと幸いです。

1回目となる今回は、プレジャッジ(事前審査)から入賞作決定までの審査プロセスについて、詳細に解説したいと思います。

1)プレジャッジ
ご存知の方も多いと思いますが、審査員はカンヌ入りする前にエントリー作品を事前採点します。オンライン上で採点し、各作品のケースフィルム、補足情報などを閲覧し、1~9点の点数を付けます。今年のエントリー総数は延べ516作品ありました。クリエイティブデータ部門の審査員は10名おり、それぞれが全作品のうちの半分くらいの審査を担当します。私の場合は約250作品を3週間程度で採点しました。残り半分の採点権限はありませんが、視聴は可能ですので自己採点はしておきました。

2)審査員
今年のカンヌでは審査員の選考についてもダイバーシティ(多様性)の配慮がありました。女性と男性の審査員のバランス、これまで選出がなかった国からの派遣など。クリエイティブデータの審査員も男女5名ずつでした。審査員長の所属先はHavas(US)で、審査員はDroga5(US)、IBM iX(オーストラリア)、OMG(UK)、Mastercard(コロンビア)、The New York Times(US)、Publicis.Sapient(UK)、J. Walter Thompson Amsterdam(オランダ)、百度(中国)、私と、エージェンシー出身者の比率が少ないカテゴリだったかもしれません。

審査部屋はかなり狭いです。でも今年は幸いなことにオーシャンビュー!

3)ロングリスト
初日の午前中にジャッジに関する簡単なブリーフィングを受けたあと、各審査員にタブレットが渡されました。ここにいわゆるロングリストが収録されており、今年は総エントリー516作品のうち約46%にあたる240作品が通過していました。この段階で落選した残り54%の作品は一度も現地で審査されることなく、話題に挙がることもなく、また復活の機会もないままふるい落とされているということです。前述のとおり、各審査員はすべての作品をプレジャッジしているわけではないので、エントリーの半分程度は自分の手が届かないところで落選しているわけです。

審査員は全員でロングリストのケースフィルムをひとつずつ見ながらタブレットに採点していきます。プレジャッジでは単純に1~9点を付けるだけでしたが、この段階では、各作品をStrategy、Application、Innovation、Resultの4つの評価ポイントについて、それぞれ1~9点を採点します。時間がないため、ほとんどディスカッションをせず、みな黙々と部屋のテレビモニターでケースフィルムを見ながら点数を付けます。後から振り返ると審査期間中で一番つらい作業でした(笑)。この作業は二日目の午前中いっぱいまでかかりました。

今年は3日間ともにランチを取る時間がありました。

4)ショートリスト
二日目の午前までかけて、全240作品の採点が終了しました。ランチタイムの間に事務局が採点を集計し、59作品が審査員に提示されました(これがショートリスト候補です)。A01~A10までのそれぞれのカテゴリごとに順位も一緒に発表されます。ここから「下位作品の再審査」「敗者復活」をして、やっとショートリストが確定し、ディスカッションがはじまります。

下位作品の再審査では、各サブカテゴリの下位作品について、ショートリストに残すべきかという議論をひとつずつ行って決めていきます。大体、下から1、2つ目、時には3つ目くらいまでを審査します。一通り議論したあと、審査員の3分の2の投票が集まるとその作品はショートリストから外されます。全カテゴリを審議した結果、合計4作品が落選しました。

一方、「敗者復活」ではショートリスト候補の過程で落選してしまった作品について、各審査員がそれぞれ1つだけ復活申請を行うことができます。自分が復活させたい作品については情熱をもって応援演説する必要があります。この過程では全部で6作品が敗者復活しました。私の応援作品も無事復活できました(ホッ)。そして最終的には61作品がショートリストとして残り、6月20日に発表となりました。

5)メダリスト
いよいよ審査3日目、最終日です。ショートリストの候補からブロンズ、シルバー、ゴールドそしてグランプリを決定します。まず事務局からメダル総数の目安を25個と言い渡されました。そこでショートリストからブロンズ以上と思われる25本を選出します。おなじみのタブレットを使い、一作品ずつ議論し、審査員の3分の2以上の投票があった作品を選出していきます。ブロンズ以上候補の25作品が選出されたら、今度はその中からシルバー以上に当たる作品を同様のやり方で選出、そしてゴールド、最終的にグランプリも同じやり方で検討し全てのメダルが決定した訳です。最終日は朝9時から19時まで、ひたすらこの作業を行いました。結果的には事務局提示のメダル数目安から1つ増えて合計26作品が受賞作となりました。審査終了後にはシャンパンが振舞われ、審査員一同、事務局メンバーと乾杯です!

今回は、イントロダクションとして実際の審査プロセスを解説しました。次回は、各プロセスにおける詳細をお話したいと思います。

望月 良太
アクセンチュア インタラクティブ マネジング・ディレクター

コンサルティングビジネスをアクセンチュアで11年、広告代理店ビジネスを電通にて11年従事。アクセンチュアでは業務・ITコンサルティング、インターネット、Webシステムの開発を行う。電通ではストラテジープランニング、ショッパーマーケティング、新規事業開発、店舗開発、デジタルマーケティングを得意とする。現在、日本のアクセンチュア インタラクティブのマーケティングケイパビリティ統括。
カンヌライオンズ2018 クリエイティブデータ部門 審査員。

 
 

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