大島さんが代表を務める映像製作会社ネツゲンで、「プロジェクトとドキュメンタリー作品の共通点」をテーマに、『予定通り進まないプロジェクトの進め方』の著者 前田考歩さんが対談を行いました。
無意識のうちにプロジェクトをしていた
前田:今日は、ドキュメンタリー映像作家の大島さんに、プロジェクトの進め方について聞くという、ちょっと異色の対談なんですけれども。早速ですが大島さん、この本読んでいただけましたか?
大島:はい。読んでいて気が付いたのは、ドキュメンタリー制作というものが、この本で定義する「プロジェクト」そのもので、無意識のうちにいつもプロジェクトやっていたんだ、ということです。ドキュメンタリーなので、当然、一筋縄ではいかないことも起こるんですが、なぜそうなってしまうのか、それをプラスに転じるにはどうすればいいのか、ということをこの本が言語化してくれたと感じました。さすがにもう20年やっていますんで、最近は大きな失敗は少なくなってきたんですけど、いまだにゼロにはなりませんよね。
前田:ドキュメンタリーにおいて問題が起きるのは、どういう部分が多いのでしょうか。
大島:一番多いのは、属人的な問題ですね。スタッフや被写体との関係など様々です。
何度か仕事をしたスタッフであれば、ある程度ツーカーというか、暗黙のうちに共有できていた前提が、初めて仕事をする人とのやりとりになると「あれ、そう受け取っちゃう?」みたいなことが起こる。
前田:ありますね。社外とのやり取りはもちろん、大きな会社であれば社内でも部署によってコミュニケーションの作法が違うということがあると思います。
大島:なんで揉めるかというと、答えがないんですね。出版でも同じだと思うんですけど、答えがないものに向かって、答えらしきものを皆で合意して、探していかなければならないじゃないですか。でも結局何が正しいかって、わからないんですね。
前田:それは作品の中身が、ということですか。
大島:中身もそうですし、視聴率がどうだったとか、観客動員がどうだったとか言われても、違う内容のものは同時には発表できないわけで。番組でも、映画でも、一回出したら売れなかったからといって「じゃあこっちで」というわけにはいかないですからね。
前田:プロジェクトの基本的な性質として、それが一回性のものでやり直しがきかない、ということがありますからね。
大島:そうなんですよ。だから世に出す前に、試写とかでプレビューと言って、編集途中のものをみんなで見て意見を言い合う場があるのですが、そこでバトルが起こるわけです。2回くらい見てディレクター(監督)とプロデューサーが合意して、3回目くらいで確認のプレビュー、という流れだと結果もいいことが多いんですが、「なんか違うな」となったら、4回5回、下手したら6回7回と試写を繰り返すこともあります。
前田:その都度編集しなおして、コストが発生して……
大島:はい。そういう場合は、そもそもの前提が間違っている場合が多いですね。スタッフの間で完成物のイメージが違うから、いつまでたっても「これだね」ということにならない。だからドキュメンタリーというプロジェクトにおいては、コミュニケーションが一番のキモだと思います。
書籍案内
『予定通り進まないプロジェクトの進め方』(3月29日発売)
ルーティンではない、すなわち「予定通り進まない」すべての仕事は、プロジェクトであると言うことができます。本書では、それを「管理」するのではなく「編集」するスキルを身につけることによって、成功に導く方法を解き明かします。