「アートサイエンス」という多様な学問領域を深めるべく、最先端のスペシャリストが講義を行った。
アートサイエンスにおけるものの見方・考え方を学ぶ
AI 技術の発展により機械が人間の能力を超えるとされるシンギュラリティが迫りつつある昨今、「アートサイエンス」は確実に社会のキーワードへと変化を遂げている。
そんな社会的背景を受けて、立ち上がったのが「未来の箱舟教室」だ。この講義では、アートとサイエンスの両分野に携わって活動する、あるいはそれぞれの領域で独自の世界を切り拓いているスペシャリストを招致している。これまでに、メディアアーティスト 真鍋大度さん、理論物理学者 橋本幸士さん、DOMMUNE 宇川直宏さん、人工生命研究者 池上高志さん、予防医学者 石川善樹さん、アーティスト 目(め)と、多様な領域の人たちが登壇した。
「“アートサイエンス”を学ぶことは、技法や知識を取り入れるだけでは足りません。分野をまたぐ中で、“自分だけの世界の見方”を育てることが重要だと思っています」と話すのは、この企画を進めたWebメディア「Bound Baw」編集長 塚田有那さん。ものごとの見方や哲学、個人の持つ豊かな想像力を知り、現代の社会やシーンをどう読み解くか。また、その際に表現する方法は多様にあることを知ってもらうことで、学生たちがこれからの4 年間、深い思索を紡いでいくことを目指している。
基調講演を行った真鍋大度さんの講演テーマは「アートサイエンスの過去と現在」だ。1970年の大阪万博から始まり、19世紀に生まれた世界初のアニメーション、バウハウスのデザイナーがつくったダンスなどを挙げながら、それらがいかに現代の表現に結びついているかを説いた。真鍋さんは「過去を学び、新しいテクノロジーやアイデアを用いることによって、実現できる表現を生み出すことが可能になる」と話した。
池上高志さんの講演テーマは、「過剰性と生命」。「生命的にふるまう機械」の研究を続ける中で、大阪大学 石黒浩教授と開発したアンドロイド「オルタ」に至るまでの研究や考え方について解説した。「生命らしさとは何か」への挑戦を続ける池上さんは「シンギュラリティは人間にとって恐怖ではない。世界の見え方やもののつくり方など、あるゆるものがこれまでありえないような可能性を考えていく時代になる」と、未来について語った。
物理の先端仮説・超ひも理論を研究する橋本幸士さんの講義テーマは、「詩と時間」。自身が書いた時間が2つ存在する小説「時間2次元小説」、「時間3次元+4次元小説」などを紹介しながら、「物理と文学」という新たなジャンルの融合の可能性を提示した。
いずれの講師も自身のキャリアや表現技術ではなく、世界を見つめる視点、その哲学について語っているのが、箱舟教室の特徴だ。「芸大発の教育だからこそ、常に想像する力を高め、表現する手法を考え抜く“人間力”を高める必要性がリアルに迫ってきています。一般にメディアアートというと、“テクノロジーを駆使したアート表現”とくくられがちですが、テクノロジーを単なる表現技法のひとつとして学ぶのではなく、現代社会において、そのテクロジーがどんな意味を持つのか、どう人間を変えるのか、そういうことを考えるきっかけにしたいと思いました」(塚田さん)。
学生たちに新たな道を示す「未来の箱舟教室」の講義は今後、「Bound Baw」ですべて公開される。
編集協力/大阪芸術大学