アイデアはデータで進化する。 ~ クリエイティブデータライオンズ審査を終えて ~ その2

クリエイティブデータ部門で注目すべき受賞作品

■DATA INTO DOLLARS(SILVER)
A02 Data Driven Targeting

アメリカの携帯キャリアのブランドスイッチキャンペーン。ユーザーがYouTubeで動画を見る際に、その動画が4G通信で具体的にいくら分に相当するのかをbumper広告で表示。動画視聴の直前を狙うことでこれから発生する通信費用を強く意識させていること、スポーツ観戦やドラマ、音楽、コスメ、ゲーム実況など動画の種類別に料金を変えていることはもちろん、ユーザーが利用しているキャリア別に料金計算している点が、素晴らしいパーソナライゼーション、ターゲティングと評価されました。

 

■BORDEAUX 2050(BRONZE)
A03 Data-driven Consumer Product

地球温暖化がこのまま進んだ場合、2050年にボルドーで収穫されるブドウ、さらにはそれで作られるワインの味を分析・シミュレーションして実際の製品にしてしまった事例。これまでとは異なるアプローチで地球温暖化防止を訴求するアイデア。ただしこれはPR、キャンペーン目的で製造されたワインであるため、果たしてConsumer Productであるのかといった議論もありブロンズの受賞に留まりました。他のサブカテゴリーにエントリーしていればシルバー以上を受賞できたかもしれない、という議論も。ちなみに審査員部屋には実物のワインがありましたが、不味いことがわかっているので誰も開けようとしませんでした。

 

■UNITED AIRLINES EWR REAL TIME DATA TAXI TOP CAMPAIGN(SILVER)
A07 Use of Real-time Data

ニューヨークに住む人にとって、ニュージャージー州に位置するニューアーク・リバティー国際空港(EWR)は無意識に遠い存在であり、利用が少ない。しかし実際にはEWRの方が近い場合も多いため、タクシーの上にJFK空港とEWR空港までの到着時間をリアルタイムに比較表示するサイネージを掲げました。最も差がある時間帯ではEWRの方が50分早いケースも。タクシーを見たときに空港を使わない場合でも、EWRは遠いという潜在的な意識を覆し、次回以降のEWRの利用意向を増大させることに成功した点も評価。データ活用方法、ストラテジー、アイデアの三拍子そろった今年のReal-time Dataの教科書的ケース。The New York Timesの審査員も「これを見るまでEWRなんて眼中になかったよ!」と感心していました。

 

■BREAKING BALLET(SILVER)
A08 Social Data & Insight

ミレニアル世代のバレエへの興味を喚起するため、SNSから若者の課題意識 (#metoo、#AfricaGayRights、#GunControlなど)を抽出し、それをダンサーがバレエで表現した動画を拡散するという内容。ダンサーのダイナミックで迫力ある舞踊に圧倒され、こういうのもバレエなのだと、バレエに対する見方を根本的に覆す力のあるムービーです。ただ個人的には、「ソーシャルデータを駆使し若年層の課題意識に関するインサイトを探った」と言われても、ソーシャルを使うまでもなく分かるのではないか?と、メダルには疑問を持っていたのですが、他の審査員は全員一致でシルバーに推薦し、決定しました。ただしゴールドの議論になると皆、一転して「ソーシャルインサイトが、Too Common(一般的過ぎる)!」と否定派に…。そうです、ゴールド以上はまた別の次元なのです。

 

■ATM’S THAT LISTEN(SILVER)
A09 Creative Data Collection & Research

オーストラリア大手銀行Commonwealth Bankのケース。銀行として顧客とのリレーションを作る、積極的に社会改善に取り組むという姿勢から、国内4,000台のATMを使い大規模なアンケート調査を実施。顧客がATMを操作する際に「我々の社会は誰にとっても開かれていると思いますか?」(一例)といった質問画面が表示されます。全顧客のうち19%が回答しました。本業には必ずしも直結しないリサーチに、顧客との一番身近なコンタクトポイントであるATMを活用するという先進的なアイデアが面白いと感じました。データ収集およびリサーチというサブカテゴリーとの適合性も非常に明確です。

  

このようにショートリスト以上の選考においてはサブカテゴリーといかに合致しているかが受賞に大きく影響してきます。エントリーする際に色々な理由付け(作文)をすることは可能ですが、一作品あたりの審査にかける時間が短い本審査においては、ケースフィルムを見ただけでも伝わる明確な合致が求められると思います。

次回はゴールドとグランプリの選考過程の紹介と、クリエイティブデータ部門の審査を総括したいと思います。

※記事中の動画はカンヌライオンズに提出されたものではないため、本記事に記載されている情報と異なる可能性があります。

アクセンチュア インタラクティブ マネジング・ディレクター
望月 良太

コンサルティングビジネスをアクセンチュアで11年、広告代理店ビジネスを電通にて11年従事。アクセンチュアでは業務・ITコンサルティング、インターネット、Webシステムの開発を行う。電通ではストラテジープランニング、ショッパーマーケティング、新規事業開発、店舗開発、デジタルマーケティングを得意とする。現在、日本のアクセンチュア インタラクティブのマーケティングケイパビリティ統括。
カンヌライオンズ2018 クリエイティブデータ部門 審査員。

 

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