ここで次々と話題作を発表しているのが、演出家・いのうえひでのりさん率いる劇団☆新感線だ。
日本初の劇場で挑む新しい演出
「IHIステージアラウンド東京」は、360度すべてに展開されるステージの中心に巨大な円形の客席を配置。その観客席自身が回転する、これまでにない施設だ。
「最初に話を聞いたとき、客席が回るってどういうことなんだろうと思いました」と話すのは、劇団☆新感線の演出家 いのうえひでのりさん。どんなものか確かめるべく、このシステムを開発したオランダ郊外の飛行場跡地にある劇場に足を運んだという。「客席が回るシステムは自分が想像していた通りだったのですが、360度に広がる画角の広いスクリーンが素晴らしくて。客席が回ることより、むしろこのスクリーンを使って芝居をすることに新しさを感じました」。
いのうえさんはこの舞台の特性を生かすのにふさわしい作品として、新感線の代表作『髑髏城の七人』シリーズを選んだ。『髑髏城の七人』花・鳥・風・月の4 つの作品を経て、5月31日までは女優・天海祐希さん主演の『修羅天魔~髑髏城の七人 Season極』が上演中だ。この新しい舞台を見るために、毎日1300人もの観客が訪れている。
「最初の作品のときは、こうすれば面白いんじゃないかと頭の中でイメージしたものを実際にやってみたのですが、裏側の動線が長くなってしまい、役者泣かせの舞台に。作品を重ねるごとに、このシステムならではの使い方を模索しながら、少しずつ進化していきました。今回の『修羅天魔』は1 年間の経験と知見を経て、効果的に舞台を使うことができました」。
大阪芸大時代の同期や後輩を中心に結成された劇団☆新感線。メンバーはいまやいのうえさんにとって“日常”のような存在だ。
そして、大学時代に演劇のプロである秋浜悟史先生から学んだことが、いまも新感線の舞台で生きている。
「最初の授業で“僕の授業は君たちに演劇をあきらめさせるためにやっている” と言われました。それくら演劇とは厳しいものである、と。いろいろ教えていただきましたが、“それが舞台で成立しているかどうか”ということは、いまでも演出時に意識していることです。全体を通して舞台が成立していることも大事ですが、それ以前にひとつのシーンの中で役者が人として立っている姿に無理がないか。そこで語ろうとしていることにうそがないか、そういう部分に常に意識を向けるようにしています」。
大学時代は授業に出ずに、ひたすら芝居に没頭していた。「そのとき芝居が面白いと感じたから、いままで続けることができたのだと思います。どんなに生活が苦しくなっても、芝居をやっていてつらいことは何もなかった」と振り返る。そして、「大きい舞台も面白いけれど、いつか機会があれば、学生のときのように小規模でも、自分がやりたいことありきの作品がつくれたら」と密かな野望を明かしてくれた。
7月からは同じ劇場で『メタルマクベス』シリーズが始まる。そして、2020年までの予定はほぼ埋まっているという。劇団☆新感線の快進撃はまだまだ続きそうだ。
いのうえひでのりさん
撮影:富永よしえ
編集協力/大阪芸術大学