一方、世界の広告主ランキングでは上位トップ5に入る企業が擁するブランドはいずれもトップ10圏外にとどまった。
莫大な広告宣伝費が強固なブランド構築に必ずしもつながらず、はるかに小規模なマーケティング部門を擁する企業が次々とブランドイメージのトップを独占する。
この意味するところは、果たしてマーケティングの死なのか?
話題のマーケティング書の著者でもある気鋭のマーケターたちが青山ブックセンターに集い、トークイベントを開催。この問題の真相と未来への打ち手を議論した。
登壇者
井上大輔(いのうえ・だいすけ)
アウディジャパン株式会社 メディア&クリエイティブマネージャー
奥谷孝司(おくたに・たかし)
Engagement Commerce Lab 代表
オイシックス・ラ・大地株式会社 COCO(チーフ・オムニ・チャネル・オフィサー)
岩井琢磨(いわい・たくま)
Engagement Commerce Lab ディレクター
大広プロジェクト・マネージャー
逸見光次郎(へんみ・こうじろう)
オムニチャネルコンサルタント
モデレーター:
徳力基彦(とくりき・もとひこ)
アジャイルメディア・ネットワーク株式会社 取締役 CMO ブロガー
マーケティング=プロモーション
の偏重主義はもうやめにしよう
徳力:今回は、少々刺激的なテーマのトークイベントです。マーケティングは死んだと言えば、当然死んでないと怒る人がたくさんいると思いますが(笑)。
もし仮に、マーケティングはすでに「死んでしまった」という仮定で話しを進めるとしたら、一体どこが死んだのだと思いますか?
井上:最初にまず、いくつかデータをご紹介したいと思います。2004年にヨーロッパのマーケットを対象にニールセンが行ったリサーチによれば、日用消費財商品のうち76%が一年以内に棚落ちしていることが解りました。
消費財企業と言えばマーケティングの先進者集団、マーケターにとってサッカーでいえば欧州のトップリーグのような存在と言えますが、これが現実です。
2011年のハーバードビジネスレビューのレポートによると、日用消費財の成功の基準といわれる5,000万ドルを超える商品は、年間で3%にも満たない。
入念なリサーチを基にマーケティング活動をしているにもかかわらず、トップ企業が年中空振りをしている。従来、教科書として仰ぎ見られてきたマーケティングの体系が、今大きな変化に直面していることは間違いありません。
消費者が一日に体験するブランド体験を記録する「カスタマーエクスペリエンスダイアリー」というフレームワークで可視化すると、消費者が1日に経験する実に95%以上のブランド体験が、企業側が意図していなかったタッチポイントであると解ります。
広告など企業がコントロールできる部分は、全体の5%しかないのにもかかわらず、コントロールできるという理由のみでほぼ全てのマーケティング予算と努力がそこに注がれてしまっている。それが現在のマーケティングを取り巻く現状です。
【図1 従来の4P思想】
岩井:図1のようなフロー型のマーケティング思想は、確かに死んだと言えるのではないかと思います。それは何かというと、いいものを作って、価格を決めて、広告をして売るという、一連の流れに基づいた発想です。その中でもこれまで日本のマーケティングでは、コトラーさんも指摘するように、「広告(Promotion)」ばかりに予算がかけられてきました。特に「場(Place)」は所与の要素だと捉えられ、重要視されてこなかった面があります。しかしこれからは、「場の革命」が起きていくんじゃないかと考えています。
【図2 場(Place)を起点としたエンゲージメントループ】
奥谷:近年「オムニチャネル」が盛んに言われるようになり、オンラインやオフライン、モバイル環境といったものを考えるほど、いままで中途半端な存在だと考えられてきた「場」の重要性が際立ってきました。
これからは、図2のように、まず「場(Place)」でエンゲージメントをしっかりつくること。その上でよいプロダクトをつくり、プライスを決定し、プロモーションを実行する。こうしたエンゲージメントループが求められていると思います。
今後、メーカーはむしろ流通を飛び越えて自らの優れた場をつくり出せばいいと思う。そうした「場」でのエンゲージメントのストックこそが大事になってくるのだと思います。
逸見:私が手がけている「オムニチャネル」は、今言われた場の話になるんですね。これはつまり、顧客接点のこと。オムニチャネルにおいて私がきちんと差別化しているのは、「商品が手元に届くところまで追う」という点。
オムニチャネルはマーケティングの一部ですが、サプライチェーンの段階までを指している。これはつまり、企業活動全体です。
以前、私が書いた本の書評にこんなことが書いてありました。
「私はマーケターですが、この本には財務諸表や組織の話など、マーケティングとは関係のない話が書いてあります」
それを見て、これまでのマーケティングがなぜ死に瀕しているのかに気づきました。なぜなら、フレームワークがどんどん複雑になっていった結果、すぐに取りかかれるものではなくなってしまったからです。