すべての元凶は「マーケティング部」
という視野の狭さにある
徳力:とてもわかりやすい例ですね。マーケティング部の仕事は何か?を考えた時、日本では相当狭い部分を指しているケースが多いと思います。リサーチの部署だと思っている人もいるし、広告キャンペーンのための部署だと思っている人もいる。実際、広告宣伝費のほぼ全てはそこに突っ込まれているケースも多いわけですから。
それではそういった従来型マーケティングが「死んだ」原因として、一番の問題点をあげるとしたら何でしょうか?
井上:「カスタマーマーケティング」と聞くとどのような部署を思い浮かべますか?消費財メーカーでは、これは実は小売企業のバイアーと、ボリュームディスカウントなどの商談をする機能です。それなら営業だろう、と思われるかもしれませんが、このようにマーケティングという概念は非常に広範で、企業の一機能というよりは「カイゼン」のような思想に近い。
これは問題点であり、同時にチャンスでもあるのですが、会社全体がマーケティングマインドセットを持たなくてはいけないのにそうなっていない、ということでしょうか。そういう意味では、「マーケティング部」という職種なりポジションなりが死んだのだ、と言えるのかも知れません。
逸見:今まではひとつの企業の中でも宣伝部、販売促進部、ブランディング部、マーケティング、とすごく多くの部署に分かれていましたからね。
奥谷:マーケティングは学術的にもたくさん種類があるし、伝え方も多様。それが理解をややこしくしているのだと思いますね。
特に通販企業では販促的なマーケティングを死ぬほどやっていて、むしろブランドを毀損しているほど。まずはそこからやめなければいけません。
マーケティングの一番の課題は、基本的にやりっぱなしという点。カスタマージャーニーは買った後も続いているのに、途中でやめてしまう。そこをどうしていくのかが問題ですね。
岩井:結局、顧客のために全ての機能をどう連動させていくか?というシンプルな話なのに、どうしても組織の縦割りの弊害が出る。本来は顧客基点のビジョンがあり、それが組織全体に機能としてどう落ち、それぞれが連動できるかが大事です。
でも実際には、縦割りの組織にどう横串を刺すかは難しい問題です。つまり、カスタマージャーニー全体を見ると一番の問題点は、マーケティングが部署ごとに機能分化しているという点、しかも手法論で分化していることだと思います。
マーケティング指標を変え
「制御不能な95%」への投資を
徳力:今回、井上さんからの問題提起で興味深かったのが、ベストグローバルブランドのトップ企業に広告主ランキングのトップ企業がランクインできなくなってきているという指摘でした。一方で、GoogleやAmazon、Facebookなどのウェブサービス企業が増えてきている印象は強いです。それらの企業はサービス自体がマーケティング効果を生んでいるため、プロモーション予算をかけずにブランディングができているとも言えます。
この結果をふまえて、既存の企業が変えなきゃいけないことって何でしょう?
井上:それが先ほどの「コントロール不可能な95%」にお金を使うことだと思います。いま大半の企業は、タッチポイントがコントロールできる5%にすべての金を使おうとしている。理由は「コントロールできるから」だけ。
IT系企業がトップを独占している理由として、たとえばヤフーやグーグルなどでは、サーチボックスの位置を1ピクセル単位で日々微調整していたりします。英語で「オブセッション」と言いますが、ユーザー体験にある種の「狂気」を持って取り組んでいる。そうして築きあげた体験の集積は、保証はないし計算が立ちにくいですが、長い目で見てブランドにつながっているのだと思います。
奥谷:そうですね。だからこそ今、「場」を持っている人たちがチャンスなんだと思います。例えばAmazonはオンライン企業ですから、人とのつながりとは直接関係ない部分で一生懸命やってきたように見えるかもしれない。しかし、そこでの体験は他にないものです。一方で今後も生活者のプロダクトに対するアタッチメントは消えないでしょう。どこで買ってもいいというのであれば、体験を重視した優れた「場」のほうに価値があります。
逸見:小売側の視点でいうと、いま企業が何を変えるべきかといえば、それは「指標」だと答えます。
今まではメーカーと小売では見ているお客さんが違っていました。メーカーはセグメントでお客さんを見ますが、小売はひとりひとりのイメージを持った上でセグメントの話をするので、実は対象の顧客がズレているんです。
なぜそうなるかといえば、店舗は実際の顧客を見ているから経験値がある。一方、メーカーはデータという数値でしか見られません。経験値に投資することは、マーケティングだけではなく企業として必要なことだと思います。
後編につづく
このイベントの様子は、「#マーケティングは死んだ」で語られています。ぜひチェックしてみてください。
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