持ち時間は1人5分!知事に自由にアイデア提案 「勝手にプレゼンフェス」開催

なんでこんなことになってしまったのか?

それは遡ること3年前、佐賀市の休日の昼下がりのカフェで 就任したばかりの知事が、家族とともに遅めの昼食を食べていた。その隣の席で、僕は事務所のスタッフとミーティングをしていた。そこが偶然、僕が設計を手がけていたからカフェのマスターが気を利かせて紹介してくれた。

「馬場さん、隣に座ってるの、県知事ですよ。山口知事、隣に座ってるの、この空間の設計者ですよ」。僕らは適当な会話をして、「今度、呼ぶから、遊びに来てよ」と言われて別れた。当然、社交辞令だと思っていたら、しばらくして事務所に本当に電話がかかってきて、「○月○日、県知事が遊びにこないか、といってます」と書かれたポストイットが机の上に貼ってあった。

あまりに単刀直入なのがおもしろくて、本当に僕は県庁にノコノコと遊びに行ってしまった。

それでなんとなく知事と気軽に連絡を取ってもいい空気が生まれていた。

それからほどなくして、佐賀県は新しい政策を発表した。その二本柱が、「地方創生」と「さがデザイン」だった。県庁内はざわついた。「地方創生はわかる。しかし、さがデザインとは、一体何のことなんだ?」
謎めいてはいたけれど、「デザイン」ならば僕らクリエイターの出番もあるかもしれないと、東京で活躍しているクリエイターに声をかけてさがデザインの担当部署も含めて、ゆるい集まりを開いた。

知事とは近い空気感になっていたので、今度は逆に、知事に対して、「佐賀出身のクリエイターたちが、東京で集まって飲んでるので、遊びに来てください」と、誘ってみた。するとその日、本当にやってきたのだ。

その時の会話。

「オレたちは地元に思いがある。いろんなアイデアも、やりたいこともある。問題意識だって持っている。それを直接プレゼンさせてくれ」、みたいなことを、みんな言ったような気がする。たぶん言ったのだと思う。なにしろみんな酔っていた。

がしかし、それが本当に実現した。2年前の7月15日、会場となっていた街なかの映画館で行った「勝手にプレゼンフェス」に、知事や県職員が大勢でやってきたのだ。平日の勤務時間だったのにもかかわらず。

プレゼンの制限時間は1人5分。それを超えると残酷に、バッサリ打ち切られてしまう。その後10分間の質疑応答が行われる。質疑応答と言うよりブレストに近いかもしれない。行政としてそれは魅力的なアイデアなのか、実現できる可能性はあるのか、それともあっさりボツなのか、その場でバサバサと判断されていく。ときには「これ、担当部署どこにする? ○○課長、検討してくれ」みたいな凶暴なトップダウンを何度か目撃した。担当部署はたまらない。予定外のプロジェクトが突然、降ってきてしまうのだ。

デジタルクリエイター 古瀬学さんのプレゼン風景。

このプロセスは、もしかすると画期的なことなのではないかと思うことがある。今まで行政の事業はほとんどは行政が立案した政策に僕ら民間のクリエイターが応えるという順番だった。しかしここでは逆のことが起こっている。クリエイター側の提案に行政側が応答することになるのだ。

僕らの声はダイレクトに届く。

なぜ今まで、日本の行政政策にはこのルートがなかったのだろうか。「勝手にプレゼンフェス」はプロセスの逆転を実践している。

結局、今でもさがデザインの政策を正確に説明できる人はいないような気もするが、僕らが勝手に行政の政策をプレゼンし、それを県庁の主要メンバーがみんなで聞いている、という現象自体が「さがデザイン」そのものなのかもしれない。

僕ら一人一人が政策を語ってもいい。そのフィールドは用意されている、というメッセージなのではないかと思っている。究極の民主主義、地方行政・政治へのダイレクトなコミットメント、その可能性の追求みたいなもの。

まるで殿に直訴する野武士みたいだ、と思いながら今年も僕らはフェスを楽しんだ。

時は幕末からちょうど150年。今年はそれを記念して「肥前さが幕末維新博」が開催されている。佐賀は長崎出島の警備の役に当たっていたこともあり、ものづくりの技術で日本を牽引していた。大隈重信など時代の開拓者も多数輩出している。

それから150年。佐賀はデザインをキーワードにして次なる社会の姿を追求している。

プレゼン終了後には、山口知事と永井さん、著者、建築家の西村浩さんのパネルディスカッションも実施。
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