「大家さんと僕」は表紙で揉めた!? 編集者も腰を抜かした、カラテカ矢部の才能とほっこり裏話

矢部太郎さん(カラテカ)×武政桃永さん(新潮社 出版企画部 企画編集部)

お笑いコンビ「カラテカ」の矢部太郎さんが、80代の大家さんとの仲睦まじい日常を描き、2018年6月に第22回「手塚治虫文化賞 短編賞」を受賞した漫画『大家さんと僕』。 矢部さんと新潮社の担当編集者・武政桃永さんがヒット本になるまでの道のりを振り返った対談を、『編集会議』2018年夏号(7月31日発売)の特別編としてお届けする。

楽屋の笑い話から 大ヒット漫画へ

—矢部さんが『大家さんと僕』を描くに至るまでの経緯を教えてください。

矢部:正直、自分が漫画を描くとはまったく思っていませんでした。楽屋で笑い話のネタとして話していたことはあったりしたのですが。一軒家なのに、大家さんが1階で僕が2階に住んでるって変わってるじゃないですか。しかもすごく仲がいいんですよ(笑)。  

漫画化のきっかけは、漫画原作者の倉科遼先生です。大家さんと京王プラザホテルでお茶をしていたときに、以前から知り合いだった倉科先生にたまたまお会いしたんです。「おばあちゃん孝行だね」と言われて、「いえ、大家さんなんです」と答えたら、「お茶したりして不思議な関係だね」って驚かれて。

話をするうちに「映画とか舞台の脚本にしたいから、どんな出来事があったかもっと教えてよ」と言われたので、後日絵コンテを描いて持っていきました。そしたら倉科先生が「すごい面白いから、このまま漫画で出版した方がいいよ!」と評価してくださって。

その後、所属事務所のスタッフが絵コンテのコピーを新潮社さんに持ち込んでくれて、どんどん具現化していきました。

武政:初めから「1ページ8コマ」 いう今のスタイルだったので、原点が絵コンテと聞き、とても納得しました。

矢部:結局その後もそのスタイルは崩さなかったですしね。

カラテカ・矢部太郎さん

—矢部さんは元々漫画家になりたい という夢があったのですか?

矢部:うーん、特にはなかったです。 実は、本格的に漫画を描くのは今回が初めてだったんです。誰でもあると思うんですけど、中学生ぐらいの時になんとなく「漫画を描いてみたいな」と憧れたことはありました。その時、手塚治虫先生の漫画教本も買ったんですが、 実際に描くとなるとすごく難しくて挫折しました。今回、倉科先生に見せる ための絵コンテを描いた時も、何度も 消しゴムをかけて紙が破けちゃったく らいです。今はパソコンで描いているので少しは楽ですが。

—武政さんは、初めて目にした矢部さんの作品にどのような印象を持たれましたか。

武政:まずは1話目だけを拝見したんですが、矢部さんの才能に驚きました。 ご本人は謙遜されるんですけど、ストーリー構成がしっかりしていてとても 面白かったんです。そこで、「絶対に私が担当したい」と立候補しました。普段は文字ものの本が中心ですが、コミックエッセイの編集経験もあったので、「漫画を読んだことのない人にも 楽しんでもらえる作品にしたい!」と 勝手に意気込んでいました。

次ページ 「愛情のこもった 作品づくり」へ続く

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