「神」か「英雄」か?物語における顧客の描き方から考えるブランド戦略


物語の6つの筋から分類するブランド

物語を目的から考える一方で、世の中にどのような筋と結末をもった物語があるのかという視点での分類もできます。BBCの記事「全ての物語の6つの原型 データ分析から解明」によると、バーモント大学の研究では1700もの英文学をテクスト分析して、以下の6つの原型を導き出しています。

1.貧民から富豪型:不運から幸運へと上昇する、立身出世
2.富豪から貧民型:幸運から不運へと下降する、悲劇
3.イカロス型:一度は上昇するものの、その後に下降する
4.オイディプス型:下降した後に上昇し、また下降する
5.シンデレラ型:上昇した後に下降し、最後は上昇する
6.穴の中の男型:一度は下降するものの、苦境を脱して上昇する

これはキャラクター原型や物語の目的とは違った視点ですが、その結末がどうなるかという考えでは、より直接的に物語が伝えようとしていることが明確になります。面白いのはイカロス、オイディプス、シンデレラと、すでに過去の有名な物語のキャラクターが分類で使われていることです。その意味でキャラクターと結末というのは人々の頭の中に典型的な帰結として連想されているといってよいでしょう。

その意味で物語ブランドは基本的には、「貧民から富豪」、「シンデレラ」、「穴の中の男性」のように最後は上昇することを理想としています。特に「シンデレラ」にみられる、上昇への回帰とは、単なる立身出世と異なり、顧客がもともと持っている上昇の可能性が下降した際に主人公を助けることによって、上昇させるというパターンであり、多くの物語ブランドの原型になっていると考えられます。この物語の中盤における下降とは主人公が挫折することが前提となっているということであり、そこでの苦難を乗り越える際に物語ブランドは意味を持っているといえます。

その意味で、多くの人は直感的に「悲劇」を避けるかもしれませんが、悲劇や下降というものは共感や感情移入を生む稀有な機会でもあります。したがって顧客が失敗していることや下降しているときにきちんとブランドが寄り添うこと自体は、物語にとってマイナスではありません。これは自動車保険や家庭用洗剤などの「問題解決型」の物語ブランドのストーリーによくみられる方法で、彼らのストーリーには必ず主人公である消費者が困っている場面が出てきます。それは主人公を助ける物語ブランドがもっとも役に立つのは顧客が突発的な事故問題で不安になっているときだからです。

次ページ 「ブランドが顧客をどうみているかによって変わる物語」へ続く

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鈴木健(ニューバランス ジャパン マーケティング部長)
鈴木健(ニューバランス ジャパン マーケティング部長)

1991年広告会社の営業としてスタートし、ナイキジャパンで7年のマーケティング経験を経て2009年にニューバランス ジャパンに入社し現在に至る。ブランドマネジメントおよびPRや広告をはじめデジタル、イベント、店頭を含むマーケティングコミュニケーション全般を担当。

鈴木健(ニューバランス ジャパン マーケティング部長)

1991年広告会社の営業としてスタートし、ナイキジャパンで7年のマーケティング経験を経て2009年にニューバランス ジャパンに入社し現在に至る。ブランドマネジメントおよびPRや広告をはじめデジタル、イベント、店頭を含むマーケティングコミュニケーション全般を担当。

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