ぴあは2017年6月から、プレスリリース配信サービス「PR TIMES」と連携。「ウレぴあ総研」「ハピママ*」など5つの情報サイトで記事素材が供給され、データを活用した編集体制、記事の評価システムを構築している。
ぴあ「ウレぴあ総研」×PR TIMES
写真/杉能信介
─ぴあでは2011年に情報誌の『ぴあ』休刊後、同年に情報サイト「ウレぴあ総研」を立ち上げています。2015年にはDMPを実装するなど、データ活用にも積極的ですね。
市川:現在、「ウレぴあ総研」ではユーザーの趣味・嗜好やライフステージに合わせてグルメや子育て、ディズニーなど10以上のカテゴリに分類しています。私自身は2002年入社で雑誌『TVぴあ』編集長を経て、「ウレぴあ総研」編集長と兼任でサイトのUI・UXなども手がけてきました。編集部のメンバーも多くは紙の雑誌の経験者で、そこからDMPを活用した商品開発にも携わるようになったという経緯です。
三島:情報サイトのうち、プレスリリース配信サイトの「PR TIMES」を連携いただいているメディアは5つあるんですよね。トレンドやライフスタイルを追う「ウレぴあ総研」のほか、ママ向けの「ハピママ*」、グルメ情報を発信する「うまいめし」、アニメやキャラクターを扱う「Character JAPAN」、スポーツメディアの「funDOrful(ファンダフル)」です。
市川:そうですね。いずれのカテゴリも「誰に」記事を届けるかという点を明確にして編集・運営しています。
元々、チケット販売で約1700万の会員がいて、年間で約7000万枚のチケットを取り扱っているので“データドリブンな会社が運営する情報サイト”という意識が強いです。ところで現在、「PR TIMES」はどのくらいのユーザー規模ですか?
三島:2018年6月時点で2万3000社が利用していて、月間1万本前後のプレスリリースを配信しています。情報収集を目的に会員登録するメディア記者は1万1000人を超えています。
市川:ちょうど1年前(2017年6月)から「PR TIMES」との連携を開始したのですが、想定していた以上に活用の幅が広がっています。当初は各カテゴリの内容に合わせたプレスリリースの原文転載と、編集部がサイト運営に使用しているCMSにリリースのテキストや写真データをつないで記事作成の効率化ができれば……といった狙いでスタートさせたんですよね。
三島:転載でタイムリーな情報掲載、CMS連携でネタ探しや素材手配、入稿などのフローをお手伝いできれば、という観点からのシステム連携でした。
市川:ところが連携を進めるうちに、これまで実装してきたDMPと組み合わせることで活用の幅が広がるのではないかなと気づいて。転載したリリースについて、DMPを通じて「実際の読者がどのくらい関心を持ったか」「どんなキーワードに反応しているか」「特定のテーマに関心あるユーザーがどんな関連ニュースを見ているのか」といったデータを把握して、ヒットする編集記事の切り口や傾向をつかむことができるようになった点は大きいですね。
三島:それは嬉しいです。実際にどんな記事で活用されているのでしょうか。
市川:最近では、バーチャルのアニメ風の“キャラクターライター”が商品を紹介する「とまり木のコラム」というコーナーがあるのですが、ここで「PR TIMES」で配信された商品情報を組み込んでいます。
三島:この記事、面白いですよね。少女漫画風のイケメンキャラクターが商品情報をお届けするという。紙メディアの編集がルーツとなっている「ぴあ」らしい企画だと思いました。
市川:反響の大きさは数値にも表れていて、客観的な商品レポートの記事よりもイケメンキャラクターが紹介するスキームにすることで回遊率も1ユーザーあたりの平均PV数も跳ね上がるんです。キャラの個性を出した記事や、キャラの職業を活かした記事も自在に書けますし。こういう編集や見せ方の工夫にリソースを割いて、うまくいった好例ですね。今後も、このコーナーは拡大していきます。
実際、紙媒体と同等のクオリティの記事はエンゲージメントが高いです。「PR TIMES」の活用で記事の本数を担保したり情報収集を効率化したりすることで、クオリティにこだわる部分に時間をかけるというメリハリも大事にしたいです。
三島:こういった例は、広告企画などにも応用できそうですね。
市川:とあるクライアント案件で、オーディエンス分析レポートに活用したケースもあります。特集内記事広告を展開した際、「PR TIMES」から関連性の高い話題を別途ニュースとして発信して接触層などの分析に活用させていただきました。ほかにも記事内にアンケートを配置できる機能を開発しているのですが、「PR TIMES」発の話題を編集して記事化した上で、読者アンケート(定性・定量)を組み込んでいるケースもあります。記事によっては回答率も50%くらいで、多数の反響があります。この声自体が、今後の広告・マーケティング向け商品開発に使えるのではと考えているところです。
ライターに指標と数字を共有
─紙メディアでは実現できなかった体制を構築し、コンテンツの評価軸や編集の進め方は変わりましたか。
市川:現在、10メディアで社内外の編集者は7人、その下に約500人のライターがいます。月間の総記事数は300~400本なのですが、定期的に書き手ごとにデータを用いたフィードバックをするようになりました。ライターは自分が書いている記事の平均滞在時間、回遊率、1ユーザーあたりのPV数など複数の指標を把握して、次の企画提案や記事の切り口づくりに役立ててもらうようにしています。
三島:このような体制に変わったのはいつごろからですか。
市川:ここ3年くらいですね。加えて、長期的に読まれる記事や季節ごとにヒットしやすい記事が得意なライターもいるので、短期的なPV数だけで実績を見ないようにしています。長期的に数字を検証してメディアに対する貢献度を明らかにすると、息の長い「エバーグリーンコンテンツ」が何かも見えてくるんです。
三島:書き手としてもやりがいがありますよね。瞬間的な評価だと、釣り記事やネガティブな内容に走ってしまいますし。長期的にポジティブで有益なニュースやコンテンツを評価していこう、というのは「PR TIMES」としても共感するところです。
市川:一方で、データだけがすべてではないとも思っています。ライターの熱意は大事にしたいですし、ただ面白いだけでなく「誰に」届けたいかが明確であれば、その気持ちは尊重したいです。今や「この人に届けたい」という熱量が高い記事は、人が見ても検索エンジンが見ても伝わるようになっていると思うんです。それは「ぴあ」というメディアが実際にアクションを起こす読者、もとい熱量ある「ファン」の方々を大事にしてきたというルーツにもつながっていると思います。
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