自分の中にないものを埋めるように物語をつくっている(ゲスト:細田守)【後編】

『未来のミライ』でお父さんを建築家にした理由

細田:きっとみなさんも小さいときにやり損ねたこととか、何かあるんじゃないかな。僕が子どもを描くのも1つあるのは、子どもの頃に後悔があるというか。僕は内気で、なかなかうまくいかないと思いながら生きているような子どもだったと思うので、そういう部分を何かで埋めたくて。

たとえば目の前に自分の子どもがいると、昔の自分の子ども時代のように、そういう思いは持ち込まずに生きてほしいと思ってみたり。自分の意思でそれをやっているんじゃなくて、そう動いちゃうというのがある気がしますね。

澤本さんはそういうことないですか?

澤本:今しゃべっていただいたようなロジカルなことはないですけど、自分がやり残したこと、過去の自分の人生に対するある種の報復というと変ですけど、やり残したこと、できなかったことを今、この歳になってやっちゃおうかなということはありますね。

細田:そうですよね。僕らは映画をつくってるけど、見るのもほとんどつくるのと同じ行為のような気がするわけ。たとえば、アクション映画が好きな人、僕もそうだけど、普段アクションできない人じゃないかと(笑)。でも、めちゃくちゃやりたいわけじゃない。その心を満たしてくれるところがあったりね。

子ども時代も僕から見たら、みんな溌剌と元気にやってると思ったけど、ひょっとしたらみんなどこかでうまくいかない、不満を持ってたりね。そういうのがない人はいないんじゃないか、という勝手な予測をしていて。だったら子どもの視点を借りて、地道につくるのも意味があるんじゃないかと思うんですよね。

澤本:シチュエーションの話なんですけど、今回はお父さんが建築家じゃないですか。あれはどうして建築家にしたんですか?

細田:もともと今回の舞台が家1軒と庭1つではじまって終わるという、家の中だけのお題なので、むしろ家の中を映画的な空間にしようと思って。普通だと映画の舞台設定は映画の美術監督がつくるけど、今回は趣向を変えて本当の建築家にお願いしたんです。谷尻誠さんという、今いろいろなところで名前を見る、若くて面白い建築家がいて、その人にお願いしてるんですよ。

澤本:じゃあ、あの家のデザイン、設計自体を本物の建築家の方がやったと?

細田:そうです。谷尻さんと打合せをしていたときに話を聞いたら、うちと同じようにお子さんが小さくて、奥さんも働いていると。「設定も近いじゃないですか」なんて言っている間に、だんだんお父さんの仕事も建築家にしちゃおうかなと思ってきて。

澤本:そういう流れなんだ(笑)。

細田:実際に取材がしやすいから、さらにいいなと(笑)。それまではもうちょっと曖昧だったんですけど、そういう出会いの中から決めました。でも、家で仕事をする人は他の職種でもいっぱいいると思うんです。アニメーションの演出家だって家のダイニングの机で絵コンテを描いてる人っていっぱいいるんですよ。みんな知らないかもしれないけど(笑)。建築家にも、「こういうことあります?」と聞いたら、「ありますね」と言っていたから、じゃあこれはありだなと。

澤本:あの設定が僕はすごく良かったと思っていて、今おっしゃったけど、ダイニングで仕事をしていると子どもが騒いだり。こういうのはリアリティがあっていいなと。

細田:仕事したいんだけど、別の騒ぎがあっちであったと思えばこっちでもあって、というのは面白いですよね。ちゃんと書斎があって、自分の世界に籠るという仕事の仕方じゃなくて。

中村:あぁ早く見たい! 明日公開だぞ、みんな(笑)!

澤本:星野源さんが声をやってるけど、これがハマってるんですよ。

細田:まさに建築家のお父さんの役です。星野さんはピッタリ来て、僕もびっくりしました。初めてお仕事をさせてもらったんですけど、星野さんは結婚もしてないし、お子さんもいらっしゃらないけど、現代を生きるお父さんの不器用な感じをコミカルに包んで親しめるような表現にしてくださって、本当にすごいと思って聞いてました。

澤本:普通に聞いていると、星野源くんと意識しないけど、よく聞いたら源くんだなと。

細田:そうですね。何も情報入れずに見た人は星野さんと気づかないかも。でも、あのリアリティってどこから来るんだろうと思いますよね。表現する幅が広い。後で雑誌の対談で話をしたんですけど、そういうところの問題意識はもともとあるみたいで、それを表現する、形にする、落とし込む力がすごいですよね。

次ページ 「観客が『未来のミライ』をどう見たかが、次作に影響する」へ続く

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