観客が『未来のミライ』をどう見たかが、次作に影響する
澤本:こう言っていいかわからないけど、俳優さんが声をあてた感じが全くないじゃないですか。普通にキャラクターがしゃべったらこうなんだろうなと。
細田:それも一種の人間性みたいなところってあると思うんですよね。お父さんはいろいろな要素があって、人間であるその人、お父さん、会社員という役割など。みんな役割を演じて生きているわけだからいいけど、そういう部分とその中にある人間の部分が対比になると面白いわけじゃないですか。
でも、僕らは日常でも演じているようなものがあるから、演じることに意識がある人って演じるところに力点が置かれちゃうので、人間性が隠れちゃうと思うんです。その点、星野さんはしっかり人間性が出ていて、それが描かれている人物とフィットしている、寄り添っているというのがすごいところなんですよね。
これは主役の上白石萌歌さんにも言えることですけど、人間性がそのまま表現になっているんです。
澤本:上白石さんは年齢も性別も違う人をやっていてそうなるからすごいですよね。
細田:そうなんですよ。それを子どもっぽく、男の子っぽく演じると、既に役割になっちゃうんですよね。そうじゃないんだということなんですよ、きっと。
澤本:福山さんも出てるじゃないですか。福山さんの役は逆にそこに出てる青年が福山さんにしか見えなくなってくるの(笑)。すごいんですよ、フィットの仕方が。
細田:よく「キャスティングからキャラクターデザインをしてるんですか?」と聞かれるんですけど、そんなことはないんですよ。だって、アフレコの2、3か月か前にキャスティングをやるけど、キャラクターデザインは1年半ぐらい前からスタートしてるから。イメージしてるものも違ったりするけど、声が合うと、最初からこの人をモデルにして書いたんじゃないかと見えてくるのが不思議ですよね。
澤本:本当ですね。福山さんが1か所絶叫してるシーンがあるんですよ。僕はあんなに絶叫してる福山さんの声って聞いたことないけど、それも見事にハマってるわけ。
細田:あれも一聴して福山さんとわからないですよね。
中村:あの…、気が早いんですけど次回作について考えてらっしゃることはありますか? 3年かけてやっとできたところアレですが(笑)。
細田:今はできたということがうれしくて、そのこと自体に浸りたいし、みなさんに見てもらうこと、この作品の幸せをスタッフとして噛みしめたいですね。この映画をたくさんの人が見てくれたら、次につくるチャンスがまた得られるんだと思います。そのときにはお客さん自身が『未来のミライ』という作品をどう見たかが次の作品に影響を与えると思うので、ぜひそれを教えてほしいなと思いますね。
中村:それが次回作のヒントに繋がるかもしれないと。個人的には96の国と地域で配給が決定しているのはすごいと思います。今はディズニー、ピクサーのスキームがいよいよ完成されて、アニメーションと言えば日本と思っていたから悔しいけど、面白いじゃないですか。
澤本:ピクサーと日本の、細田さんの違いって、ピクサーはある種の集合知じゃないですか。たくさんの集合知で絶対の正解を出してくるけど、細田さんをはじめ日本のアニメーション監督の方、特に細田さんはそうですけど、つくってるのは細田さんですからね。
細田:いや、そんなことないですよ(笑)! みんなでつくってます。